村上龍+中田英寿「文体とパスの精度」

文体とパスの精度

文体とパスの精度

中田 イタリア人とワインの話をしていておもしろい話を聞いたな。友達同士でも恋人同士でもパーティなんかで、おいしいワインは全部なくなるけど、まずいワインは絶対に残るんだって。(笑)たとえ咽が渇いていても、絶対に残るって。

中田 重要な大会があったりしたときに、最終的にはレギュラーとして出ているからそういうイメージがあるのかもしれませんが、実際は補欠から始まって、徐々に徐々に試合に出始めて、最後にレギュラーを取っているという状態なんです。それはやはり負けず嫌いであるということと、あとは自分で言うのも何なのですが、やはりそれだけいろいろ見て考えていた。言われたことをやるのではなくて、自分で考えて、たとえばうまい選手がいたら、あそこは自分よりうまいなと、そういうふうに少しずつ自分で吸収していって、たぶんそれで試合に出られるようになっていくんだと思います。

村上 で、エースが代表に入らないっていうことはしょっちゅうあるんだよ、今までの歴史の中でも。クライフにしても、カントナにしても、フリットにしても、日本のマスコミはまさかそんなことはないだろうと思って書いてるんだろうけど、でもあるんだよ。その国のダントツのエース、攻撃の中心が出ないこともあるし、反対にサッキがマンチーニやバッジョをなかなか代表にしなかったように、監督が出さないなんてこともしょっちゅうなんだから。そのくらい日本のサッカーも層が厚くなったとか、世界のサッカーに近づいたということはいいことなんだけど、メディアに危機感がなさすぎるよね。