竹下節子「アメリカに「NO」と言える国」

アメリカに「NO」と言える国 (文春新書)

アメリカに「NO」と言える国 (文春新書)

「欧米」という言葉を「欧」と「米」の違いを考慮することなく使っていないか。欧州に関する情報源のほとんどをイギリスからのものに頼っていないか。「西洋」というだけでひとつの括りにして扱っていないか。「キリスト教」というだけで一纏めにして扱っていないか。

本書は非アングロサクソン系の欧州国であるフランスの外交姿勢、国としての性格、国民の行動様式をアングロサクソン系のアメリカやイギリスと比較しながら分析し、なぜフランスがアメリカに「NO」と言えるのか、またその国としての在り方から日本国が取り入れるべきことは何なのかについて考えようという意欲に溢れる作品である。

—–



冒頭でも述べたが、日本では「欧米」という言葉に表されるようにヨーロッパとアメリカを併せて扱ってしまったり、たとえ「欧」と「米」の違いを認識していたとしても、「欧」に関する情報の大半をアメリカと同じアングロサクソン系のイギリス経由で得ているため、フランスがどのような性格を持つ国であるかを意識できる機会が少ない。「武士道に代表される日本人のメンタリティは、建前を重んじるフランス人のそれと共通する部分がある」と考える著者からすれば、せっかく学ぶべき相手がそこにいるのに、その相手に関して知る機会が少ない、という非常にもったない状況であるということだろう。

本書は大部分をフランスとアメリカの比較に費やしている。そして両者の違いを見るときの重要キーワードとして「ユニヴァーサリズム」と「コミュノタリスム」を挙げている。簡単に説明すると、フランスに代表されるユニヴァーサリズムとは「個と個の違いに注目して世界を見ること」であり、アメリカに代表される「コミュノタリスム」とはコミュニティとコミュニティの違い(例えば白人と黒人とか)に注目して世界を見ること」である。この両者について理解を深めながら、「日本が進むべき道はどのようなものなのか」を著者と共に考えるという内容であり、これらの言葉を聞いたことがないという方は(僕もそうでしたが)一読の価値があると思います。

本書にひとつ文句を付けるとすれば、後半部分における「犬」と「猫」の例えが強烈、かつ最後が「猫へのインタビュー」という印象的な締め方なので、読後感がその「犬と猫」のイメージに占領されてしまった。人は印象としてあまり多くのものを記憶に残せないと思いますので、この部分は多少削っても良いのではないかと思います。