塩田潮「「昭和の怪物」岸信介の真実」

「昭和の怪物」岸信介の真実 (WAC BUNKO)

「昭和の怪物」岸信介の真実 (WAC BUNKO)

まずワック株式会社の書籍は値段が安いのが素晴らしい。本書も350ページ以上あって1,000円以下というお得な内容。勿論内容も興味深い。

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戦前、戦時中、戦後を官僚、政治家、そして内閣総理大臣として駆け抜けた昭和の怪物(妖怪と言われることが多いが)岸信介の伝記モノ。広義の安部新総理モノとも言えるかもしれない。
日米安保条約改定のイメージがあまりにも強い岸元首相だが、もともと東大での秀才で、若くして商工相に就任するなどずば抜けた業務処理能力を持っていた官僚だった。ただ、当時から官僚の枠に収まらない人間であったようで、満州に渡ってからは国を統率する人間としての素養を見せ、学生時代からの計画通り、政治の世界に飛び込んでいく。
A級戦犯として収監されるも、処されることなく娑婆に戻り、世間の批判の目をものともせず日本の復興を信じて精力的に活動する様には心打たれた。僕は個人的に「昭和モノ」が読み物として非常に好きである。なぜ好きなのか、この本を読んで改めて考えてみたんだけれど、戦前の、あるいは戦後直後の若者の「熱い心」が好きなんだと気付いた。彼らは必死に日本という国を素晴らしくするための方法を考えていた。その中には今から思えば間違いだったという方法も少なくないが、今の日本にそのような気持ちがどれほどあるだろう。あの時代の人間は必死に勉強し、実行し、情熱を持って国を支えていたんだと思う。本から得る美談ばかり知っていることは認めつつも、このような憧れが僕を昭和史に惹きつけるんだと思う。
それにしても、やはり日本のトップに立ったとしても、本当に成し遂げられることはひとつだけなんだなと改めて実感。岸元首相の場合、本当は日本国民による自主憲法制定を最終の目標にと考えていたようだが、その手始めの安保改定だけで精一杯だった。岸元首相が安保改定が行われ、小泉元首相が郵政民営化を行い、そして安部現政権によって憲法改定が行われるのだろう。安部政権による憲法改定は、我々をどんな世界に連れて行ってくれるのだろうか。