清水輝彦「シアトルの驟雨」

シアトルの驟雨

シアトルの驟雨

シアトルを舞台にした小説を読みたいが為に、Amazonでタイトル買いをしてしまった。「タイトル検索買い」という購買行動はインターネットというテクノロジーが生み出した人間の新しい行動パターンと言えるだろう。
本題の中身だが、シアトルという都市のファンは必ず読むべし。

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本書は三篇の短編から成り立っているが、ページの3/5くらいはタイトルとなっている「シアトルの驟雨」に割かれている。シアトルに駐在する、定年が見え始めた中年夫婦が主人公であり、そのシアトルでの生活と、老後という人生に向けての選択、意識し始める死と微妙な心の動きを描いた静かな作品である。登場人物のほとんどがシアトルという都市を愛しており、おそらくは著者にもシアトルに住を構えた経験があると思われ、非常に美しいシアトルの描写と共に物語は進んでいく。
タイトルにもあるとおりシアトルは非常に雨が多い町で、大体シアトルに関するジョークは雨に関するものである。通常雨が多いと言えば住み辛い印象や暗い印象を与えるのだが、シアトルには「雨が多いからこそ分かる晴れの日の素晴らしさ」というような雰囲気があり、天気が良いだけで街に活気と笑顔が溢れるような街である。実際天気予報でも週末が晴れだとニュースキャスターのテンションが高かったりして見ていると微笑ましい。
スターバックスやシアトルマリナーズといった日本でもお馴染みのシアトル物が登場する訳ではないが、シアトルという都市がどのように人々から愛されているのか、知っている人と知りたい人は読んでみよう。