中島隆信「これも経済学だ!」

これも経済学だ! (ちくま新書)

これも経済学だ! (ちくま新書)

経済系の新書が元気だ。次々に出版されているし、どれもこれも興味深いので大変に嬉しい。正直経済学の理論書は眠くなりそうなものが多いので、まずこういった新書から色々な人に(特に若者に)経済学を学んでもらおうという大学の先生方の意図もあるのだろう。「経済学者の新書執筆も経済活動だ」ということでいいですかね。

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著者の意図は結局「経済学者は世界をどのように見ているのか」を我々非経済学者にもわかってもらおうということである。本書ではそれを伝統文化や宗教活動という一見「それって経済と関係なさそう」というような事柄について経済学的な視点から見ることにより説明している。「経済学者って世間をどんな風に見ているのだろう」という疑問をお持ちの方がいれば、本書を一読することにより膝を打つことが出来ると思う。
経済学者はおそらく「全体」を相手に物事の方針を考えなければならない職業で、そういった意味では政治家と共通点がある(「個」を相手にしてしまう政治家も多いが)。普段我々は個をベースに思考をしているので、全体を相手に思考をする人間を「冷徹」とか判断してしまいがちである。これは僕が考えた例だが、例えば「シルバーシートを撤廃した方が、結果的に老人や体の不自由な人が席に座れる可能性が高い」というような意見をある経済学者が表明したとする。彼の理論の詳細や彼の意図が満遍なく我々に伝わればいいが、世の中そのようなことはあまりなく、伝わってくるのは「シルバーシートを撤廃しようとしている輩がいる。許せん。」といったような意見である。こういった本当は正しい意見なんだけど、一見すると正しくないような意見については以前にも書いているので以下もご一読ください。
二十代は模索のときブログ : 正しくても感情的に受け入れがたいこと

本当に正しいものを手に入れたかったら、経済学者のように考える方法は知っておいた方がいいと個人的には思う。これは経済学者が正しいことばかり言っているという意味ではなく、全体を相手にする思考方法を身につけておくべきということである。