
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: 単行本
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ブログやら雑誌やらで絶賛されている本書だが、前評判どおりの面白さ。2006年を代表する一冊であることは間違いない。
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何処かで書かれていたことだが、我々日本人は佐藤優という優秀な人材を外交の世界から失ってしまったが、代わりに読書の世界に佐藤優というこの上ない人材を迎えることができた。もし若い読者層の中から将来佐藤氏の意思を継ぐかのような人材が現れれば佐藤氏も本望だろう。
佐藤氏の書籍は「精読」が合っているように思う。精読というと多少大袈裟なのだが、いつも本を読むペースよりも二割減くらいのスピードで本を読み進めると丁度いい。いや、逆だ。たまに精読をしたくなるのだけれど、それに耐えられる本があまりなく、佐藤氏の書籍はそれに耐えられるものなのだ。個人的には彼には文才、人を唸らせたりはっとさせるような文を書く力とする、があると思っておらず、その点では他の作家とは違うのだが、アカデミックなバックグラウンドの力強さと豊富な経験から氏の引き出しには尋常でなく多くのものが詰まっており、かつ「事実を事実として詳述する力」に激しく長けているため、このように興味深い書籍を我々のもとに届けることが可能なのであろう。
ソ連の崩壊というと、なんとなくもう歴史になってしまったという感があるが、本書ではその歴史を東西の対立などに代表されるマクロな視点ではなく、ソ連高官の人間関係であるとか、各組織間にどのような対立があり、その対立がどのような論理から来るものであるとか、そういう内側から見た(自壊だから当たり前だが)非常にミクロな視点から描いているというのも面白い。ひとつ難点を挙げるならば、登場人物がかなり多く、ソ連系に限らないが他の国の人間の名前を覚えるのは非常に難しいため、ある人物をある人物と誤認してしまい、混乱に陥ることが何度かあった。そういう意味では、もう少しゆっくり読み進めるべきであったのかもしれない。
それにしても本書を読んで痛烈に感じたのは、アカデミックな世界への痛烈な渇望である。僕は理系の人間であり、佐藤氏が専門とする神学とはまったく畑が違うものの、氏の神学をアカデミックに追求する姿勢には心を打たれたというか、そもそも大学や大学院とはこういう人間のためにあるんだろうなという過去の自分を鑑みての悔やみとか、もう一度自分も専門分野をアカデミックに追求してみたいという気持ちにさせられた。2007年のひとつの目標としてアカデミックな、大学院の教科書レベルの専門書をいくつか読みたいと考えていたのだが、その想いがいっそう強くなった。また知的基礎体力、具体的には語学力の向上についても色々と考えさせられた。とにかくそんな一冊である。また再読するだろうと思う。