出井伸之「迷いと決断」

迷いと決断 (新潮新書)

迷いと決断 (新潮新書)

出井CEO時代のSONYの動きを思い出すに、この本に書いてある内容、つまりインターネットをビジネス界に落ちた隕石に例え、その大変化後の時代に適したSONYを作ろうという彼の考えは「ある程度」は成功したと思うし、「日本でのネットへのインターフェースは全てSONY製品となるんじゃなかろうか」なんて僕も当時思っていたことを思い出す。

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しかしやはり天下のSONYのCEOとはいえ、インターネットのインパクトの大きさは見誤ったのではないかと思う。例えば気になったのは以下のような記述。

p.140

しかし今や、アップルのiPodがウォークマンの地位を奪うまでに成功しています。
スティーブ・ジョブスはウォークマンの成功をアメリカからじっと見つめて、それをネット上での音楽配信の仕組みに生かしたのです。1999年の時点ですでに、インターネットからの音楽ダウンロードサービスも楽しむことができる「メモリースティックウォークマン」を発表していたソニーとしては、現在の状況は悔しい限りです。

僕が思うに、スティーブ・ジョブスがじっと見つめていたのはウォークマンというよりもNapstarだ。Napsterの登場は本当に時代を「変えた」。それを来るべき変化と考えたアップルと、許されざるべき変化と捉えたSONYとの差が現在の状況になっているのだろう。ソニーミュージックが傘下にあるばかりにこの辺りに踏み込めなかったことは出井氏も本書で認めるところではあるが。
本書は昨年末に出されたものであり、多少「後付だろう」と感じてしまう部分もあるのだが、やはり出井氏は秀逸な経営者であったのだなと本書を読んで考えた。最後は大変だった。引き際を誤ったという声もあるかもしれない。しかし彼には来るべき時代は見えていたのだ。ただそれは彼が想像していたのよりも横暴な時代であり、その時代に適応するにはSONYは大きすぎたのだ。