三崎亜紀「となり町戦争」

となり町戦争 (集英社文庫)

となり町戦争 (集英社文庫)

出版時も多少気になっていたのだが、先日文庫化されたので購入。内容とはあまり関係ない感想だが、やはりこの手の本は文庫化されるまで待つに限る。特に本書なんかは十代とか二十代前半の年代が読者として想定されるだろうから、一冊に二千円くらい出すのは大分辛いのではなかろうかと思う。書籍にもソフトウェアのようにアカデミックパック、つまり学割があると日本の若者のためになると思うのだが。

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本書の空気感は独特である。話の展開は極めて具体的であり、例えば村上春樹氏の物語のような抽象的描写などは一切ない。かと言って例えば村上龍氏の「半島を出よ (上)」のような強いメッセージ性を持った物語という訳でもない。戦争という極めてメッセージ性の強い題材を選んでいるので、戦争の悲惨さや行政の愚鈍さ、戦時状態での人間の狂気とかそういったテーマがあるんだろうな、と思っていたがどうもそうではなく、物語はただ淡々と進んでいくのみ。登場人物も多少戦争に翻弄されていくも、あまり彼らに大きな感情の揺れを感じることもなく、ただひたすらに物語は前に進んでいく。こういったスタイルが好きな方もいるのかもしれないが、もう少し物語りに重さがないと僕には物足りないなと思った。
文庫版には書き下ろしのサイドストーリーが付いており、そういった意味でも文庫版がお得である。