村上春樹「遠い太鼓」

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)

感想を正直に言えば、羨ましかったというか、このような旅を私も妻と経験してみたいという種類の事が一番最初に出てきてしまう。もちろん彼らは遊びに行っていた訳ではなく、小説を書き上げる為という立派な理由があるし、書いてあった通り楽しいことばかりではなかったようだが、それでもこのような長期の旅を(しかも三十代後半で)経験することが出来る人間というのは限られているだろうから、やはり純粋に羨ましい。とにかく本を読んでいて、出てくる料理とワインが美味しそうだった。それが強く印象に残る。
あと感じたのが、やはり小説を書くというのは芸術的な創造作業なんだという当たり前のこと。村上春樹さんなんかは、なんとなく普段我々が仕事をしているように、定期的に、継続的に、ときに単調に小説を書くという作業を進めているイメージがあるが、それでもやはりそういう状態に自分を「持っていく」ことが出来ないと中々書けないものなんだなあ、と実感。そのためにも旅が必要なのだとしたら、旅も彼にとっては仕事の一部と言えるだろう。
あ、イタリア人のいい加減さに辟易している様も印象に残っているが、最後の方に書かれていた内容から推察するに、しばらくイタリアから離れているとそのいい加減さすら愛すべきイタリアの一部ということで懐かしく思ってしまう。イタリアってそんな国ではなかろうか。まあ犯罪は勘弁して欲しいんだけど。