僕が言うまでもなくたくさんの人が何度も言及しているだろうが、すべてのものは悪用されえる。技術も当然悪用されえる。車が犯罪に使われるなんざ基本だし、犯罪人同士が電話で連絡をとりあう事もあるだろうし、ネットを使った犯罪、スピーカーでの騒音行為、撮影機器で盗撮とまあ色々。どんなものでも結局は使いようだ。極端な事を言わしてもらえば、電気なんかどれだけ悪用されたか分からない、とんでもない技術とも言える。
個人的には非常に便利かつ面白いと思っているが、別にGoogle Street Viewを礼賛する気はない。ただ「犯罪に悪用されたらどうするんだ」なんていう論調を目にする機会がかなり多いので、「では絶対に悪用されない技術やサービスとは果たしてどんなものだろうか」と悩んでしまうのだが。
月別アーカイブ: 2008年8月
ミルトン・フリードマン「資本主義と自由」

- 作者: ミルトン・フリードマン,村井章子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2008/04/17
- メディア: 単行本
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本書を読んでいる間、常に頭の中を流れていた言葉がある。市場は我々より頭がいい (The market is smarter than we are) というもの。別に本書のどこかに書いてあった訳ではないのだけれど、本書を通して著者が我々に訴えていることを一言でまとめてしまえばそういう事なのだと思う。僕なんかが改めて言及する必要のないくらい本書は既に名高いが、目を通してみた感想はやはり「名著だ」ということにつきる。本書の感想としてはよくあるものだが、初版が1962年だということには驚きを隠せない。なぜなら現在日本や世界が喘いでいる問題の多くが本書では論じられているからだ。
翻訳が良いのかもしれないが*1、とにかく著者の語り口はシンプルで明快である。フリードマンは本書の中で次々と、公共事業をはじめとするいわゆる大きな政府路線が如何に経済的に間違っているものなのかということをズバズバ斬っていく。その刀は単純な公共事業や金融政策のみならず、教育制度や職業免許制度にまで向けられる。今までこれほど自由というものに拘っている人間を僕は見た事がない。自由主義者とはまさにこういうことを言うのであろう。僕は経済はド素人だし、例えば社会福祉国家を目指そうとする人の主張に耳を傾けたことすらないが、ひとつの実験として、今後の経済をまずは自由主義者の立場から見てみようと思う。気分だけはフリードマン、ということで。
単純で明快だと上述したが、それでも理解できない部分はいくつかあった。これだけの本なので、もう何度か目を通す事で理解出来ればと思う。まったく経済に興味のない人でも、第6章の「教育における政府の役割」は読んでみてもらいたいと強く思った。まず分かり易い話だし、フリードマンが信じる自由主義というものがどういったことであるかを感じるのにも丁度いいし、何よりここで論じられている教育バウチャー制度は非常に魅力的な提案だ。立ち読みできそうな長さの章なので、是非ともちらっとご覧下さい。
最後にもう一度だが、市場は僕たちより遥かに頭がいいのだと思う。よって市場を公正に働かせることが、経済の、ひいては我々の幸福にとってとても重要ななのだと思う。おそらく政府の役割とは、そのような市場の正常な作用を守ることと、資本主義では解決できない問題や、資本主義の副作用に対処することなのだと思う。
*1:これだけの本なので、原著も購入してみたいものである
かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」

- 作者: かわぐちかいじ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/02/08
- メディア: 文庫
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おそらく多くの読者がそうであったように、僕も序盤は海江田四郎の天才軍人ぶりにひたすら痺れ、それこそのめり込むようにページを捲っていた。戦闘シーンでは男の子に戻ってドキドキしてしまったし、軍ものの漫画を読んで兵隊さんに憧れた昭和初期あたりの子供達の気持ちと似た様なものを感じていたと思う。序盤はそのように面白かった。
中盤以降からは「一体これだけの話をどのように決着を付けてくるのか」という大人の発想で楽しんでいたけれど、読了後の正直な感想を言わせてもらえば「やっぱり着地点を探るのが難しかったかな」というところか。終盤の戦闘シーンでは、海江田があっとおどろく作戦で窮地を乗り越える定型パターンがやり過ぎのように思えてきてしまったし、海江田を巡る地上での政治家や経済人の動きや闘いも序盤から読んでいるとしつこく感じてしまう部分があった。
とまあ色々書いたけれど、全体としては非常に完成度が高い漫画だという印象である。多くの人に読んでもらいたいとすら思うので、あまりここには本書の内容は書かないけれど、海江田が抱えている構想を巡る世界情勢に、あまり連載当時と比べて変わりはないと思う。誰かメシアが世界に現れて、具体的な解決策を提案、実行してくれないものかと夢見てしまうのは、本書の読者としてはよくある傾向だろうか。
裏金を出してしまう親心の矛盾
こういう親心はいつの時代にも存在していると思われるので、時事問題というカテゴリではいささか不適切だろうけれど、なんとなく最近話題になっていたのでまあここで。
まず極端な話をするけれど、例えばプロ野球で大活躍することを夢見ている息子を持っている親に「100万円払えば、あなたの息子を巨人の4番打者にしてあげますよ」と誘いをかけても、金を払う親はまずいないだろう。ビジネスの世界での成功を夢見る子供を持つ親に「200万円で大企業の社長の座にいますぐ就かせてあげますよ」と言っても同様だろう。なぜかと言えば、そんなことをしても実力や見識が伴わなければ意味がないという事がその親には明確だからだ。しかしこれが「100万円で教員採用試験に合格させてあげますよ」だとお金を出す人が出てくる。しかしそういう親は「教師になりたい」と願う子供の為を思っての行動をしている一方で、「教師なんて誰がなっても同じだし、そんな大した仕事ではない」とその職業を同時に蔑んでもいる矛盾に気付いていないのではなかろうか。
テレーズ・デルペシュ「イランの核問題」

- 作者: テレーズ・デルペシュ,早良哲夫
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/04/17
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まったくのド素人ではあるのだが、それなりにイランの核問題に関心を持ってはいる。ただしやはり前提とする知識が大きく不足しているせいか、本書を読み進めるのにはそれなりに苦労してしまったというか、極めて要点のまとまったコンパクトな本であるのに、読了するまでに結構な時間を要してしまった。
著者のデルペシュ氏はフランス原子力庁戦略研究局長で、核問題の専門家だと思われる。本書の内容もさすがに専門家だからなのか、イランの核開発問題を実に多角的な視野から、具体的に言うとイラン、ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、中国、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮、エジプト、サウジアラビア、南アフリカ共和国、そしてIAEAそれぞれの立場から分析を加えている。大体ひとつの章でひとつの国や地域の立場が分析されるという作りになっているため、読み勧め易い作りにはなっていると思うのだが、前述した通り、あまり本書に出てくる様な話題の単語になれていなかったり、地理関係が分かっていなかったりすると、さっさか読み進めるというのは中々難しいかもしれない。このイランの核開発問題を巡るゲーム(と言ったら聞こえは悪いけれど)の中で日本が分析されていないことは、日本人の自分としては少し寂しい気がしないでもなかった。資源に乏しい日本にとっては、例えばイランのアーザーデガーン(アザデガン油田)の持つ意味合いは小さくないし、もっと積極的な外交努力を行って、著者の分析対象になるくらいでないと駄目なのかもしれない。まああくまで素人意見だけれども、そのくらいの潜在感が必要な事は間違いないのではなかろうか。
そんで正直に白状してしまうと、今まで新聞の報道なんかを眺めている段階では、イランって本当に核の平和利用だけを目指しているのではないかと考えていたりした。もちろん、本当にどうなのかというのは誰にも決められないのだろうが、本書を読む限りでは、十分すぎるほどの証拠が世の中に出て来ているようであり、そういう意味ではIAEAなどの期間の持つ抑止力や強制力の無さについて、少し真剣に見直す時期が来ているのかもしれない。アメリカにはその両者が備わっているのだろうが、その力を一国、ないし少数の国に集中することがまた新たな核保有国を生む現状を作っているのであれば、やはり国際期間にきちんとした力を備えるべきなのであろう。また少し、ニュースの読み方に変化が生まれそうな良い読書が出来た。
山田克哉「光と電気のからくり」

光と電気のからくり―物を熱するとなぜ光るのか? (ブルーバックス)
- 作者: 山田克哉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/07/19
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「光って何?なぜ光るの?」
「電磁波ってよく耳にするけれどどんなもの?」
「電気とか電流って実際にはどういうもの?」
「磁石って実際には何?」
「マックスウェルの方程式って聞いた事あるけど何?」
といったような疑問に数式無しで答えてくれ、かつ原子のレベルから徐々に解説してくれる素晴らしい本。個人的には名著じゃないかと思った。ハードの専門家さんが読む様なレベルの本ではないとは思うけれど、例えばデジタルカメラ等の組み込みソフトを作っているソフトウェアエンジニアさんななんかが読むと、自分の仕事をより根本的なレベルから捉えることができるんじゃないか思う。もちろん上記のような疑問をお持ちの学生さんには是非お勧め。あまりまじめに取り組んでいなかったせいかもしれないが、学生の頃に受けた物理や化学の授業の何倍もの勉強になった。いま赤外線カメラに少し関わる仕事をしているが、その基礎となる知識を得られたと思う。
上述したように本書には数式が載っていないのだが、次は是非数式ありでマックスウェルの方程式を理解したいと思った。本書で僕が一番面白いと思ったのが、マックスウェルが電磁波の存在を予言し、さらには光と電磁波の関係に気が付く部分だったので、次は是非数式を拝見したい。まあすんなりと理解できるとは思えないけれど。
この本を読み、今まで自分が電磁波という単語を誤った使い方をしていたのに気付いてちょっと恥ずかしい気持ちになった。まあ世の中に広まっている情報というのは、世の中に広まるに十分なほどデフォルメされているから通常は「厳密に言えば誤用」という情報ばかりな訳で、何も疑問を持たず、自ら調べてみる事なしにその情報を使ってしまえばまず間違いなく誤用してしまうものである。気を付けたい。
話題は変わるが、本書で紹介されていたスピンはめぐる―成熟期の量子力学 新版もかなり興味深い書籍のようだが、これは門外漢の僕が手を出すような書籍ではなさそうだ。ほしいものリストへの追加だけはしておこうかな。
マイルス・デイビス、クインシー・トループ「マイルス・デイビス自叙伝」

- 作者: マイルスデイビス,クインシートループ,Miles Davis,Quincy Troup,中山康樹
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 1999/12/01
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- 作者: マイルスデイビス,クインシートループ,Miles Davis,Quincy Troup,中山康樹
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 1999/12
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当たり前の話だけど、音楽は聴くものであって読むものではないから、例えばJAZZとかクラシックが分かるようになるといったタイトルを冠した本にはそれとなく嫌悪感を抱いていた。本書もおそらくマイルス・デイビスが作者でなかったら、もちろん実際の著者はクインシー・トループなのだろうけれど、この本を購入することはなかったと思う。
結論から言うと買って良かった。すごく面白く読めた。僕はJAZZに関しては最近聴き始めたばかりの素人だし、マイルスの作品はKind of Blueしか持っていなかったので、おそらくこの本を十二分に楽しめる程の知識を持ち合わせてはいないはずだが、それでも面白いと感じる事が出来た。個人的にはJAZZの歴史の流れの勉強にもなったという意味で、マイルスがコカインに犯されていく前の、ディズやバードとのニューヨーク時代の話が一番興味深かった。おそらく、この頃のニューヨークのJAZZをリアルタイムに、肌で感じるということがJAZZファンの共通のひとつの大きな夢なんだろう。マイルスの作品はこの本を読んでから5作品ほど聴いてみたが、いまのところこの時代に録音されたBirth of the Coolが一番好きだ。もちろん、天才マイルスの後期の作品に僕が着いていけてないだけだという事実は認めなければならないが。