クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

読む前に予想していたのは「本書を読みながら目の覚める様な知的興奮を覚えるだろう」という事だったのだが、正直に言うとそういった現象は起きなかった。おそらく本書に関する膨大な情報が既に至る所に(特にネット上に)存在するので、僕の頭の中に本書のベースとなる基本的なアイデアがあらかじめ組み込まれていたせいだろう。逆に言うとそれだけ情報が溢れてしまうような名著なのである。この先何度となくページを捲る事になりそうな予感を感じたのは、やはり著者であるクリステンセン教授が示唆する通り「歴史は繰り返す」からだろう。細かい数字などを飛ばして読んでも本書の核となるアイデアは掴めるはずなので、まだ読んでいない方で、世の中に反乱している本書関連の情報をまだ吸収していないと思われる方は一読をお勧めしたい。
さて技術者*1の視点で本書を読んだとすると、強く思うことは一つ。それは「如何にして破壊的技術を生み出すか」ということ。著者の言う通り、この「破壊的イノベーション」というのは通常新しい技術ではない。新しくないというのはつまり「基礎研究から飛び出してきたばかりの技術ではない」という意味であって、顧客や市場にとっては新しい技術であろう。つまるところ「既に存在する技術をどのようにマーケットに適合するように利用出来るか」が肝である。当然そこには新たな技術的挑戦があることも忘れてはならない。「自動車を電気で走らせる」ということと「一般家庭で使ってもらえるくらいの自動車を電気で走らせる」ということの間には通常大きな違いがある。その間ではまた新たな研究が必要だし、新たな開発が必要である。そしてそういった現場に関わることはエキサイティングであろうと思う*2。そこで活躍するような技術者になる為にはどうすればいいのか。本書にはそのようなテーマはなかったけれど、読んだ結果としてそう考えさせられる。そういう本である。

*1:本書ではビジネスに関わる全ての活動を「技術」として捉えていたが、ここでいう技術は普通のTechnologyのことです。

*2:勿論基礎研究こそがエキサイティングだという研究者の方も多くいらっしゃると思います。