森田実「自民党の終焉」

自民党の終焉―民主党が政権をとる日 (角川SSC新書)

自民党の終焉―民主党が政権をとる日 (角川SSC新書)

こ、これはひどい。今まで読書をしてきてあまり「ひどい本だ」とかそういう感想を持ったことがなかった記憶があるけれど、本書はどうにも僕には理解しがたい類の本である。
本書は政治評論家の森田実氏による自民党支配政治の終焉を予測した内容であるが、いかんせん完全に著者がバランス感覚を失っているので、「いかに小泉政治(特に経済)が駄目だったか」、「いかに小沢民主が素晴らしい可能性を秘めているのか」という内容をとうとうと、しかもあまり客観的とは言えない事実を根拠としてひたすらと繰り返している、という内容である。民主党を個人的に応援されるのは全然構わないのだが、自民党が参院選で大敗し、安倍総理が混乱のさなか辞任したことに乗じて、長年の溜飲を下げるかのような記述が目立つのはなんとも読んでいてかなわない。おそらく僕が森田氏とまったく同じ思想を持っていたとしても、このような著しくある一方の立場に有利なことばかりの記述で満足することはないと思う。
ある一部分だけを抜き出して、「ほら、こいつは変なこと言っているだろ」と言うかのようなやり方は嫌いであるが、以下の部分はどうしても気になったので抜粋したい。
pp.167

「従軍慰安婦は歴史的事実に反する」と言う者がいたら、その人は戦争のことをほとんど知らない人である。そうでなければ異常な人である。戦時中を知る者なら従軍慰安婦について軍の関与はなかったなどという無神経な話はとうていできないであろう。具体的な政府文書があるかないかは、どうでもよい問題である。

うーん。森田氏は本書でも述べているとおり玉音放送時点で中学一年生であったようなので、私の個人的な意見では戦前の人間と言うようりは戦後の人間だと思うが、どうにも戦争経験者と非経験者を区別したいのだろうか、このようなことを書いている。あと「関与があった、なかった」というのはちょっと論点とずれているんじゃないかと思うが、軍の施設だったんだから何かしらの関与はあって当たり前というか、論点は強制性にあったはずだと思う。「具体的な…」の部分はもうあまり突っ込まないとして、とにかく森田氏は小泉政権や安倍政権が行ってきた色々な事に、とにかく文句をつけて小沢民主の素晴らしさを訴えかけているのだけれど、バランスを欠いているばかりに上記の様な文章を書くまでに至ってしまった、というのが僕のおおまかな感想である。この本の内容だけで著者のバランス感覚を決め付けたくないので、公平な立場から日本の政治を分析したような著書でもあれば再度読んでみたい気はする。