渡辺明「頭脳勝負」

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

とりあえず「将棋をちょっと観戦してみたいな」と思ったので、渡辺竜王の試みはある程度僕には効いたということだと思う。
本書は竜王の位でおなじみの、渡辺明氏による将棋解説本、及び将棋観戦方法解説本そして、棋士解説本です。この紹介で分かるとおり、新書ながら結構色々な情報が詰め込まれていて、将棋を様々な角度から、言ってみれば「将棋という世界」を紹介している様な本である。どちらかというと、「将棋ってルールはまあ知ってるけど(ちなみにルールも本書で解説されています)、なんか観戦したり指したりする気はなくてねぇ」という僕みたいな人間に向けて書かれている本である。
竜王は意図的に「居飛車」、「振り飛車」、「穴熊」など専門用語を多く使い、そしてそれらの意味合いを解説することにより、我々に「まず形から将棋に入ってみなよ」というメッセージを送っているものと思われる。僕はスポーツ観戦にはほとんど興味はないのだが、友人達が野球やサッカーの談義をしているのを聞いていると、確かにプロ並みに戦術とか戦法に詳しかったりする。彼らはそれを実践できる訳ではないのだが、そういう知識を元にスポーツ観戦を何倍も楽しいものにしている。そういう人々を将棋の世界にも増やしたい、それが竜王がこの本に込めた願いだろう。
ただひとつだけ思ったのが、トップクラスが何千万単位の賞金をもらえる将棋は、少なくとも既にある程度のファンがいるものと思われる。比べてどうこうという訳ではないのだが、例えばこれがバスケットボールだったりすると、今でこそプロが少しずつ注目されてきたりしているが、それでも国内トップクラスのバスケットボールプレイヤーでも、年収は一千万に届くか届かないかというのが現状だろう(スポンサー等がつけばもっともらえるだろうけど)。それを思うと、少し渡辺竜王の試みは欲張りな気がしないでもなかった。あくまでも、単純に比べられる話ではないのだが。