
- 作者: 白洲次郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: 文庫
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日本国憲法成立に関与したことや、その痛快な人柄で著名な白州次郎氏が文藝春秋に散発的に書いていたと思われる文章をおそらくひとまとめにして書籍という形に纏めたもの。
なるほど言っていることは痛快だし、非常に納得も出来るし好感も持てる。経済の問題に対しても、素人ながら(とご自身で仰っている)本質を突くような発言も多く、戦前と戦後の違いをきちんと認識して、守るべきでない産業はもう守るなといったような強気な発言には惹きつけられるものがある。しかし反面、この人はもし上に立ったとしてもそのような改革(のようなもの)を断行することは出来ないだろうな、と感じた。あまりにも優しすぎる気がするからである。改革の裏側で涙を流す旧来型産業の中でしか生きていけない不器用な民衆を、とてもじゃないが「改革の犠牲となってくれ」とばかりに見捨てることの出来ない人柄であろう。犠牲のまったくない形で物事が進化していけばそれ程嬉しいことはないのだろうが、中々そうできないからこそ、政府や財界や我々一般人も旧来型の物事にしがみついてしまうのだろう。
白洲氏は非常に先見性があったというか、太平洋戦争の勃発やその敗戦について最初から読んでいたというのもあるが、戦後に日本国民そのものに対しても「反省せよ」と促しているところはさすがと思う。軍部や政府に敗戦の責任を押し付けて自分が楽になることを考えず、これからの日本人のために、まずは自分達が反省する。そんな風に考えられる人っていうのは、当時はどれほどいたのであろうか。無論、兵隊に出された人々や戦火から命からがら逃れた人と白洲氏では、見てきたものがかなり違う可能性もあるが。