福岡伸一「生物と無生物のあいだ」

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

各地で話題になっているので購入してみたが、これが滅法面白い。最近の僕の傾向として、理系の大学教授が書いた新書を好むのだが、これもまさにそんな一冊。なんと言うか、その一冊が自分を知的な旅へと誘ってくれるような、そんな独特な感覚を味わうことが出来る。「書籍にはやはり知的興奮がなくては」という方でまだ読んでいらしゃらない方、是非ご一読をお勧めします。
本書は「生物とは何か」という根源的な問いに対して著者自身が答えを出そうとしたその経過を記したものである。我々は普段そのような問いかけをすることはあまりないが、「生物」と「無生物」というものを無意識のうちに判別しているし、何かをその境界に見てとっているはずである。それは一体なんなのか?それを追っていくのが本書のテーマである。
しかしながら、何故か大学の教授というか研究者達による、研究の成果を巡る競争ばかりが頭に残ってしまった。研究の世界では一番最初に発見した人にしか栄誉は与えられず、二番目以降の人には価値はないらしく、一番を巡っての激しい競争があり、特に卑怯な画策もある。確かに世間からの評価という意味ではそうかもしれない。グラントを得ないと職を奪われる教授たちによっては死活問題なのかもしれない。しかし彼らは純粋に知的好奇心に掻き立てられて研究を続けているのではないのだろうか。知的好奇心を満たすことは、二番目の発見者には出来ないのだろうか。そんなことはないのではないか。
プログラムの世界にも「車輪の再発明」という言葉がある。僕は別に車輪の再発明でも構わないと思っている。先人が達成したことをなぞるだけの行為にはそれなりに意味があるはずだ。再発明中の時間は無駄にはならない。それに再発明をすることで、その発明品に対する新たな代替案や改善案が生まれるということもあるのではなかろうか。確かに車輪の再発明ばかりしていては何事も前には進まないが、その言葉が何かの行動の足枷になるようではいけない、そのように思う。