佐藤優「獄中記」

獄中記

獄中記

佐藤氏自身も本書で書いていたと思うが、本書のような獄中体験記を読み進めていると、まるで自分が獄中にて執筆活動でも行っているかのような追体験が出来てしまう。もちろん物理的な環境は異なっているし(本書のほとんどは通勤電車で読んだ)、自分が佐藤氏のように獄中にて真摯に自分と向き合ったり、語学の向上に取り組めるかどうかは自身が持てないが、それでも彼の体験を少なからず吸収できた気がする。やはり読書というのは素晴らしいものだ。

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本書を読んでいて一番感じたこと、それは意外かもしれないが「ユーモアの大事さ」である。「ユーモアを持ち続けることの大事さ」と言った方が良いかもしれない。前半にそういった件があった気がするが、佐藤氏はこの状況においてもユーモアを持ち続けていようと務めていたと思うし、実際にそれは成功していたと思う。弁護団への手紙からも、外務省の後輩への手紙からも、彼一流のユーモアが感じとれる。こう書くと「ではユーモアとは何なのか」という哲学的な問いへと発展しかねないが、取敢えずは「現状を楽しむ力」と定義しておきたい。アカデミー賞で何部門かを獲得したイタリア映画「Life is Beautiful」は人間にとってのユーモアの大事さを描いた作品だと僕は認識しているが、あの映画を見たときのようにユーモアを持ち続けることの大事さを痛感した一冊だった。
本書を読むにあたって僕は精読、というか簡単に言うとゆっくり読むことを意識した(後半多少ペースを上げたが)。ハーバーマスもマルクスもカントも廣松渉もまったく知らない中で本書を楽しむためには、じっくりと行間を探りながら、佐藤氏の心理に迫っていく必要があると考えた為である。精読すればするほど彼の学識の高さと思考の深さに感心するばかりだったが、前述したように少しながら彼の世界に足を踏み入れることが出来たと思う。
蛇足だが、佐藤氏が数学に興味を持っている様なのに少し驚いた。ニュートンは神に愛されようと、その数学的能力を高め、真理に近づいていこうとしたと聞いたことがあるが、佐藤氏が数学を学びたいと思っている論理はどのようなものなのだろうか。機会があれば是非聞いてみたいものだ。