高杉良「燃ゆるとき 会社蘇生」

燃ゆるとき 会社蘇生 (高杉良 経済小説全集)

燃ゆるとき 会社蘇生 (高杉良 経済小説全集)

経済小説家として有名な高杉氏の二作「燃ゆるとき」と「会社蘇生」が本書には収録されている。正直最初は「会社蘇生」というのはサブタイトルかと思ったが、そうじゃなくて別の物語だった。「燃ゆるとき」は同タイトルで映画になっており、以前に宣伝を見たときに読んでみたいと思っていたので購入。

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結果としては「会社蘇生」の方が面白かった。「燃ゆるとき」はマルちゃんで有名な東洋水産株式会社の創業の物語であり、創業者である森和夫が物語の主人公となっている。本書には佐高信氏による解説がついているが、その解説に書かれている通り森という人物には独特の魅力があり、「自分は魚屋」という謙虚な気持ちを持ち続けた言動には好感が持てるものの、正直言うとよくある「創業の苦労話」の域を出ていないという気がした。相変わらず綿密な取材に裏付けられて物語が作成されているようで頭が下がるが、企業の創業、しかも現在「成功した」と周囲から認められているような企業の創業時にはどこも多かれ少なかれドラマじみたエピソードが必ずあるものである。そういった意味で目新しさに欠けており(1989年に連載されていた小説ですが)、かつ現代を生きる僕の感覚なのか「前近代的な人間臭い経営」という印象を持ってしまったことは素直に書いておきます。
一方「会社蘇生」のほうはすこぶる面白かった。こちらは経営破綻した商社の再建に取り組む、裁判所から保全管理人として派遣された弁護士宮野英一郎(モデルとなったのは三宅省三という方のようですが)が主人公であり、会社の更正を流れに乗せるための様々な問題解決がストーリーの中心となっている。主人公の宮野弁護士も大変な好人物であり、保全管理人として様々な人間を説得する抜群の能力を見せる一方、文学などにも明るく、豊富な知識で周りの人々を魅了するという公私ともに「出来る奴」といったところ。企業の再建を担当する弁護士を主人公に据えたというのが僕の中では新しかったことと、宮野の人物像、次々と問題が解決されていく爽快さがこの物語の面白さだったように思う。「燃ゆるとき」と同様、非常に綿密な取材のもとに物語りは書かれていると思う。