
- 作者: 池田信夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/01
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 164回
- この商品を含むブログ (93件) を見る
池田先生の本領発揮。
有限資産である「電波」を巡る放送・通信業界の産業構造を調べると、そこにある様々な「経済的な非効率さ」が浮き彫りになる。一若者として、本書を読んでまず感じるのはその産業構造を形作ってきた人間への単純な怒りである。
—–
YouTubeやWinnyの話を持ち出さずとも、インターネットの登場と隆盛によりテレビやラジオ、つまり放送業界に何やら慌しい動きがあることは誰も肌で感じていることと思うが、放送業界がなぜ融合よりも拒絶を選ぶ傾向にあるのか、インターネットにより放送業界の何が崩されようとしているのか、そもそもテレビ業界などは新規参入も倒産もないがどのような業界構造なのか、なぜテレビ局と新聞社は必ずセットになっているのか等の疑問に対し、的確な答えを返せる人はそんなに多くないと思う。本書はわずか200ページ足らずだが、放送業界の成り立ちから、政治的に抱える問題点、技術的に抱える問題点、インターネットとの比較などあらゆる角度から「電波」にせまり、そこに存在する「利権」を論理的かつ実証的に説明してくれている良書である。技術的にもビジネス的にも「放送」や「電波」に関わっている方、必読です。
「経済的に非効率な産業構造に怒りを感じる」と上述したが、テレビ業界の電波利権がもたらした好影響をひとつ考え付いたというか、通信業界は狭く不利な周波数域で苦労しなければならなかった分、色々な技術的ブレイクスルーを起こしていたのかな、と。ブレイクスルーというのは恵まれた環境よりも、むしろ不利な環境に追い込まれた者の打開策として生み出されることが多いと思っているので、例えば本書で紹介されている「スペクトラム拡散」などの無線通信技術が生み出されたことは、この産業構造があったからと言えなくもない。
読んでいて「ちょっと電波について無知すぎたかな」と考えさせられた。特に近年は携帯電話の登場で電波が以前よりも身近になってきている訳だし、本書に書かれている内容は知っておくべきだと思う。しかしこれ読んでしまうと、地上デジタル放送対応テレビなんて買う気がしないなあ。