手嶋龍一「ウルトラ・ダラー」

ウルトラ・ダラー

ウルトラ・ダラー

訳あってしばらく小説の類は読まないようにしているのだが、久しぶりに一冊読んでしまった。どうせ読むならということで、前から気になっていた手嶋氏の本書を選択。

本書はスパイ小説、ハードボイルド小説、推理小説、経済小説といったような色々な側面を持っている物語である。扱った内容が「北朝鮮によるドル紙幣偽造」であったので、ドキュメンタリーの要素もあるんじゃないかということで各地で話題になっている模様。まだ読んでいないけれど、手嶋氏のオフィシャルサイトに様々な書評へのリンクが貼ってある。ご購入時の参考にされたし。

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個人的な感想としては、以前に「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」を読んだときと似たような面白さがあった。我々が知る由もない国家間の情報戦争や高官同士による駆け引きを扱っていたからである。男の子として、こういった話には自然とドキドキしてしまう。スパイや探偵の話にドキドキするのと同じだろう。
あと、主人公のブラッドレーが非常に魅力的である。本書の面白さはそこに拠っていると言っても過言にはならないだろう。このブラッドレーが上手く描けたからこそ、読者をウルトラ・ダラーを巡る世界の渦に巻き込んでいけるというものだろう。なんかシリーズ物に出来ちゃいそうなくらい、奴は魅力的でした。

しかしどのような形であれ、自国を守るための動きというのはどこの国もしているはずである。その舞台裏を我々一般人が見れば、概して大げさに見えるであろう。実際その想定や動きは大げさなものであろうし、先手を打って行動したが杞憂に終わったなんてことはしょっちゅうであり、その行動がドンぴしゃりで国を守るなんて事は万に一つかもしれない。ただ、その万に一つのために行動を続けるのが行政の役目であるのかもしれない。本書を読み、そのような感想を抱いた。まあ小説だから行動が大げさなのは当たり前ですがね。

最後にですが、本書の登場人物の一人である瀧澤勲アジア大洋州局長って、少し手嶋氏本人がモデルという言いすぎかもしれないが、少し自分とダブらせた部分があったのではないかと想像している。ただの勘なんですけどね。