dysonの掃除機に見るヒット商品論

先日dysonの掃除機を買ってみた。噂に聞いたとおり素晴らしい吸引力だし、溜まったゴミを捨てるのも簡単だし、後ろから出てくる空気がクリーンだというのもどうやら本当のようだ。うん、ちょっと高かったけど買ってよかったと思わせる商品である。

さて、世の中のヒット商品には以下の二種類があるように思う(あるいは両方という場合もあるだろうが、それは前者であるとここでは考える)。

  • モノが良いからヒットした
  • 売り方が上手いからヒットした

dysonの掃除機は明らかに前者に属するものだと思う。特に日本では無名だった訳だし、ブランド名も販売力も無しにあれだけ市場に食い込んだんだから、相当にモノの良さが認められていると言える。
他にもモノの良さで売れている商品はいくつかある。良いモノは徐々に売れる、そして長く売れる傾向にあるから、販売曲線を見れば結構判断できそうだけど、最近ではiPodの良さがついに認められて大ヒットしたのが印象的だったし嬉しかったな。

一方、世の中にはいわゆる宣伝(マーケティングとは言わない)で作られてしまうヒット商品が多数存在する。典型的なのは音楽業界や出版業界、映画業界、ゲーム業界。「売ったから売れた」というモノばかりで、いささか閉口してしまう。モノは良いから売れるべきであり、宣伝とはそのモノの良さを市場に伝える為に存在するべきなんだろうけど、資本主義の宿命上、金のある一部の企業が大したことないものを大げさに宣伝したり、どこかのブレイクスルーをさも自分の成果のように売り出しているのが現状だ。ビジネスマンとしては勿論こういったヒット商品を作り出すことも大切なんだろうけど、エンジニアが「宣伝で持ち上げてくれ」と考え出したら終わりだ。エンジニアが持つべきマーケティング心というのは「この製品のここが革新的なんだ。これによって消費者にこんなメリットがあるんだ。これを伝えてくれれば絶対に売れるんだ」というようなものでなければならない。そして広告屋さんはそれを分かり易く消費者に伝えること。それが一番大事。

Paul Grahamのスピーチ「Great Hackers」の一部分を再び掲載しておきます。訳はshiroさんです。

http://www.shiro.dreamhost.com/scheme/trans/gh-j.html

けれども、他の条件が全て同じなら、偉大なハッカーを引き付ける会社には巨大なアドバンテージがある。これに同意しない人々もいるだろう。私達が1990年代にベンチャーファームから資金集めをしていた時に、いくつかのファームはこう言ったものだ。ソフトウェア会社は凄いソフトを書くことで勝つんじゃない、ブランドと独占チャネルと、うまい取り引きで勝つんだ、とね。

彼らは本当にそれを信じているようだった。その理由を私はわかると思う。ベンチャーキャピタルの多くが、少なくとも無意識のうちに求めているのは、次のマイクロソフトなのだろう。マイクロソフトがモデルなら、もちろんすごいソフトを書いて勝とうなんて考えている会社を探しちゃだめだ。でも、次のマイクロソフトを探すベンチャーキャピタルは間違っているんだ。あるベンチャーが次のマイクロソフトになるためには、ちょうどいい時期に沈んで、次のIBMになってくれる会社が不可欠だからだ。

マイクロソフトの文化は、その幸運なチャンスをものにしたところから全て始まっているから、それをモデルにするのは間違っている。マイクロソフトはデータ上の特異点なんだ。それを捨ててしまえば、良い製品を作っているところがマーケットで勝っているのを確かに見ることができるだろう。ベンチャーキャピタルが探すべきなのは、次のAppleであり、次のGoogleであるべきなんだ。

本和訳テキストの複製、変更、再配布は、この版権表示を残す限り、自由に行って結構です。
Copyright 2004 by Paul Graham
原文: http://www.paulgraham.com/gh.html
日本語訳:Shiro Kawai (shiro @ acm.org)