電車内で化粧に勤しむ女性、PSPと真剣勝負している男性、友達(または彼氏)と電話で大盛り上がりしている女性が迷惑の対象として、そして社会性を失った若者の象徴として語られることはしょっちゅうあるが、視点を変えて彼らの「没頭する能力」について考えてみたい。つまり彼らに見られる特徴的な共通点を「周りの迷惑を顧みない傲慢さ」であると考えるのではなく、「周りの状況いかんを気にせず、自分のやっていることに集中できる」と考えてみる。
彼らが住んでいる世界は非常に狭い。「自分が世界の中心」なのではなく、自分が世界そのものであり、自分以外の「電車に乗ってるおやじやばばあ」は世界にも入っていないのである。彼らにとって「ちら見してくるばばあ」や「うざったそうなおやじ」や「肩が当たったとなりのにーちゃん」なんていうのは、宇宙から地球を見ている宇宙人のようなものであり、「関係ねーじゃん」と切り捨てる対象である。今までの常識から言えばこういったものの考え方は「社会的な能力の欠如」であるが、実は「周りの状況を気にしない」というのは「何かに集中する」ために絶対に必要な能力であり、「ところ構わず何かに集中する」ために「社会的な能力を捨てた」という考え方が出来るのである。
彼らのやっている行為が何か生産的だという訳ではないので評価されることなどないが、例えば彼らがこの集中力をプログラミングに発揮すればgeekと呼ばれる人間になれるかもしれない。デザインや音楽に発揮すれば芸術家として高く評価されるかもしれない。Paul Graham氏の名スピーチ「Great Hackers」にて同氏はハッカーの特徴の一つとして「高い集中力」があるのではないかと語っている(引用文の翻訳はshiroさん*1)。
http://www.shiro.dreamhost.com/scheme/trans/gh-j.html
友人の幾人かは、ハッカーの集中力に関して言及した。一人の言葉を借りれば、「他の全てのことを頭から追い出せる」能力だ。私も確かにそれには気づいていた。また、何人かのハッカーが、ビールを半杯でも飲んだら全くプログラムできなくなると言っているのも聞いた
本和訳テキストの複製、変更、再配布は、この版権表示を残す限り、自由に行って結構です。 Copyright 2004 by Paul Graham 原文: http://www.paulgraham.com/gh.html 日本語訳:Shiro Kawai (shiro @ acm.org)
この「他の全てのことを頭から追い出せる」能力ってまさに今語っている能力のことではなかろうか。なんと日本の若者に、スーパーハッカーの予備軍がたくさんいることを発見してしまった。こいつは喜ばしいことだ。
ただ彼らをこのまま放っておけば、自動的に様々な分野でハッカーになる、なんてことは当然ない。どうすればそうなるのかを考えるのが教育を考えるということだろうし、そうなるようにするのが教師や親の役割なんだろうと思う。ただ旧世代に彼らを正しく導けるか、と問われれば「無理だろう」と答えざるを得ないのもまた事実。ネット上で進むべき道を発見したり、自己学習の方法を習得したりと、言わば「Google先生」の指導を賜るものもいるだろうが、それ以外の人間はよほどの幸運に恵まれないかぎり、その才能の花を開かせるのは難しいかもしれない。
最後に「では親や教師の役割って何なのさ」という疑問に関しては、Danさんの以下の文を引用して、今後の考える材料としたい。
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50468260.html
AudreyをはじめとするAlpha Geeksたちの最大のgiftは、才能ではなく、そんな彼らを陰でささえているふつうの人々なのです。giftedな人たちは五体不満足ならぬ五感不満足な人々なのです。人のたすけがなければ一日として生きて行けない、そんな人たちなのです。
以上。日本と日本の若者に幸多からんことを。
*1:本題とは関係ないのですが、以前mixiにてshiroさんの訳にわけのわからないケチを付けたことがありました。この場を借りてお詫びします。