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芳沢光雄「算数・数学が得意になる本」

算数・数学が得意になる本 (講談社現代新書)

算数・数学が得意になる本 (講談社現代新書)

面白かったし懐かしかったけど、この本完全にマーケティングに失敗していないだろうか。中身は小中学生、高校生、もしくはその先生が対象って感じだけど、新書の中心読者層じゃないだろうし。数学を懐かしむサラリーマンが主な購入層になりそうだけど、それじゃあ芳沢先生の想いが届いて欲しい人に届かないと思いますが。どうなんでしょう、芳沢先生。あ、子供に上手いこと算数教えたいって人が買うとよいかも。

内容としては、算数・数学を学ぶ上で「つまずき」易いと思われる部分、つまり挫折のきっかけとなり易い部分をとり上げて、解き方を教えるのではなく理屈を教える、きちんと説明する、というスタンスで著者が解説をしていく。本書の裏にある論理は前作の数学的思考法と同様のものだが、本書はもう少し具体的な問題を取り上げ「解法の理由を子供に納得してもらう」を目指して書いている本だと思います。例えば「なんで分数の割り算をするとき、分母と分子をひっくり返してから掛けるのか」を子供に説明するにはどうすればよいのか、それがこの本を読むと分かる。そういう本です。

帯にもあるけど、上記で挙げた「つまずき」というのがこの本の最重要キーワード。つまずいて数学に苦手意識を持つものが多いのが現状だが、著者の主張はむしろ「つまずき」を経験するからこそ、数学が得意になれる、数学を好きになれるというもの。

  • 足し算の筆算でつまずいてしまった著者
  • 繰り上がり、繰り下がりで子供のころ苦戦した友人の数学者

などを例に挙げている。この辺は数学的思考法の最重要キーワード「試行錯誤」と繋がってくる部分。「つまずき」に対して試行錯誤することが大事なんだよね。そして最終的にそれを乗り越えられればもっといい。

この本読んで思い出したけど、ホント空間的な思考が苦手なんだよな。ジャガイモでも切って特訓するかな。

Michael Lewis「Moneyball」

Moneyball: The Art of Winning an Unfair Game

Moneyball: The Art of Winning an Unfair Game

やはり原著で読むと時間がかかるな。まあその分読後感は爽快なんだが。

本書は副題の「The Art of Winning an Unfair Game」が表すとおり、実在する米野球チームthe Oakland Athleticsが、如何にして少ない予算の中で数多くの勝利を掴みとっていったのか、について書かれているドキュメンタリーである。著者のMichael Lewisは大好きな本であるニュー・ニュー・シングの著者でもあるだが、プロ野球チームの予算と勝利数の関係に着目して「なぜオークランドは予算も少ないのに、こんなに試合に勝てるのだろう」という疑問を抱き、この取材に身を投じたようだ。

オークランドのゼネラルマネージャーであるビリー・ビーンがこの物語の主人公である。彼は類稀な運動神経を持つプロ野球選手であったが、自身の現役時代の経験とあるレポートとの出会いから、独特のチーム運営方法、ドラフトする選手の選別方法を育んでいく。彼の側近にいるのはベテランスカウトマンではなく、ラップトップを常に持ち歩く経済学を学んだビジネスマン。「打率」よりも「出塁率」に注目する。そこらへんにこの物語の鍵がある。

話は逸れるけど、米国人は本当に数字が好きな人間が多い。日本にもプロ野球やサッカーが好きな人間は山ほどいるけど、一度として彼らが数量的な分析をしているのを見たことはないな。自分自身スポーツ観戦があまり好きではないので気持ちは分からないが、そんな分析してたらシラけてしまうのかも。

日本語版(マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男)も出版されているので、野球好きな方はどうぞご一読を。

以下はこの本に関連する梅田さんのエントリ。

「メジャーリーグを楽しむための経済感覚と歴史感覚」
http://www.mochioumeda.com/archive/president/040315.html
「ソフトウェア開発の組織論を野球に学ぶ」
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/000718.html

大和信夫「ロボットと暮らす」

ロボットと暮らす 家庭用ロボット最前線 [ソフトバンク新書]

ロボットと暮らす 家庭用ロボット最前線 [ソフトバンク新書]

「ソフトバンク新書を一冊買ってみよう」と思って買ってみた本である。理系本かと思っていたら、中身は全然違った。会社の帰りの時間だけで読んでしまった。

本書はロボットベンチャーの代表取締役である著者(ロボットサッカーの大会で、二年連続優勝した経緯もあるようだからエンジニアなのかも)による、現在時点での家庭用ロボットにまつわる状況をまとめたものである。だから話の中心はアシモやAIBOである。人々がロボットに対して抱くイメージや、期待する労働、そしてその期待にどの程度今の技術が答えられるのか、そのあたりを素人にも分かるように解説されている。産業用ロボットについては触れる程度。ロボットが経済にどのくらい影響を与えているかと、今後与えるかについても軽く解説されている。
「家庭用ロボットの可能性についてサラッと知りたい」という人がいれば、この本は良いんじゃないかと思う。

しかし本書でも触れられているが、SONYのAIBO生産中止は何かショックでしたよね。遊び心を無くしてしまった子供を見るようで…

小島寛之「使える!確率的思考」

使える!確率的思考 (ちくま新書)

使える!確率的思考 (ちくま新書)

新書を読み出してから書評が追いつかない…まあ一時間とかで読めてしまうからね。頑張って書いてこ。

また数学系の新書を読んでみた。本書は確率という側面から世の中の色々なことを考えてみた、という内容。本書は例えば、

  • 保険ってギャンブルの一種ということに気付いていない人
  • 数だけで納得してしまい、割合を考えない人
  • データを平均だけで考えてしまい、分散を気にしていない人

などなど、確率を知らないことによる「数字の罠」にかかってしまいがちな人々にとっては為になる本である。また人間の感覚と、現実世界の確率の「差」などについても、イメージし易い例を使って解説されている(例えば車より飛行機は安全なのに、なぜ飛行機が怖いのか)。世の中の色々な現象を、確率という側面から「より効果的に」見ていこうと企む本である。

テレビを見ていると、世の中本当に確率的思考を必要としている人は多いと思うので、是非たくさんの人に読んでもらいたい。例えば「社長の出身大学で、一番数が多いのは日本大学です」と聞いて「一番割合の多い大学はどこですか?」と突っ込む、「なんと、このグループの平均年齢は14.5才!」と聞いて、「標準偏差は?」と突っ込む、「○○商事の年商は500億円です」と聞いて、「利益率はおいくらなんですか?」と突っ込む(ちょっと違うか、この例は)。そんな人々が増えるといいなぁ。

しかし、人間の感覚と実際の確率に大きな相違が生まれるのであれば、そこには同時に金儲けのチャンスが生まれるということになる。あまりそういう方法でお金を儲けるのは好きではないが、そういうのが好きな人は学んでみても良いんじゃないかな。

榊原清則「キャリア転機の戦略論」

キャリア転機の戦略論 (ちくま新書)

キャリア転機の戦略論 (ちくま新書)

著者はロンドン大学ビジネススクールの準教授であったようだが、その著者が何人かのヨーロッパビジネスマンとのインタビューを通して、日本とヨーロッパのキャリア戦略の違いについて考えるという内容。インタビューは年齢層により分類されていて、

  • キャリア初期(二十歳代〜三十歳代前半)
  • キャリア中期(三十歳代半ば〜四十歳代全体)
  • キャリア後期(五十歳以降)

となっている。著者は特にキャリア中期以降の人間に重きを置いて解説している。

本書を読んだ僕の「ヨーロッパビジネスマン」の感想は、著者と同じで「ヨーロッパ人はしぶとい」である。著者の仕事の関係上、インタビューの対象者が向学心の強い優秀な人間に偏ってしまったのは事実であると思うが、それでも日本のキャリア中期以降の人間に、この「知的レベルの向上」への飢え、感心、理解を持っている人がどれほどいるかと考えると、やはり欧(もしかしたら米も)よりもやはり少ないのではないかと考えてしまいます。
例えば日本には、欧米のように比較的簡単に「学校に戻る」といったことが出来る仕組みもまだまだ足りないし、それに対する社会の理解も少ない。こういった現状を変えることが、日本経済にとって有益なのかは僕には分からないけれど、やはりいくつになっても向学心を捨てずに学んでいる人間を「キラキラしているなぁ」と感じてしまうのは正直なことだし、日本にももっとそういう人が増えて欲しいと思う。ついでに「ギラギラしているなぁ」という人ももっと増えて欲しい今日この頃。

ちょっと転職本っぽいタイトルだけど、長期的視野を持って自分のキャリアを考えたいという人が読むと良いと思う。

しかしこの著者、有名人なのかWikipediaに項目が作られていた。

大竹文雄「経済学的思考のセンス」

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)

またまたDanさんのエントリ見て本を買ってしまった(その影響で新書にはまってるし)。あまり人の書評読みすぎるのも良くないかな、と思いつつも今回も有意義な読書が出来た。

本書は「経済学的に考えるとはどういうことか」について述べた本である。身近な例を用いてその考え方を解説しているので、手軽にその考え方を飲み込めるだろう。ただ筆者は「非経済学的思考とはどういうことか」について述べていない(と思う)。筆者がもしも経済学的思考を世の人に普及したいと思うのであれば、非経済的思考がもたらす(または既にもたらした)状況などを解説すべきだったのではなかろうか。例えば「選挙時などに、安易に増税に反対していいのか?」、「貧しい国への募金はどこに消えるのか?(これなんか本書のメインテーマにも合致)」というようなテーマを取り挙げることで、経済学的思考を学ぶ「インセンティブ」をより提示できるのではなかろうか。

以前エントリでも書いたが「(経済学的には)正しいが、感情として受け入れがたい」、逆に「(経済学的には)正しくないが、感情として受け入れたい」というような事柄は山ほどある。この「論理と感情の壁」を乗り越えるための考え方を手に入れる為にも、本書のような本が世に浸透することを願いたい。

とにもかくにも、買いの一冊だと思う。そういえば本書を読んでて下記の本を思い出した。また読みたいと思ったけど、もう手元にないみたい。あれ、ブックオフったっけか?

エコノミスト 南の貧困と闘う

エコノミスト 南の貧困と闘う

  • 作者: ウィリアムイースタリー,William Easterly,小浜裕久,冨田陽子,織井啓介
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2003/07/01
  • メディア: 単行本
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竹内薫「99.9%は仮説」

99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 (光文社新書)

99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 (光文社新書)

人はすぐ科学的根拠を求めがちである。それゆえに、意味も分からない専門用語を並べられたり、医者や教授などという肩書きの付いた人間の発言だったりすると、「科学的根拠がある」と信じ込み、ある商品や方法論を盲信してしまったりする。もしかすると科学を分かっていない人ほど、科学的根拠うんぬんの説明に弱いのかもしれない。

本書は世の中の色々な事象を例にとり(例えば飛行機が飛ぶ原理)、あえて「科学的根拠のなさ」を挙げながら「科学的に考えるとはどういうことか」について紹介した本である。タイトルにもあるように「仮説」というのが最重要キーワードであり、「如何に世の中が仮説で成り立っているのか」ということが読後には分かるようになっている。「科学」と聞くと拒否反応を示す方もいるかもしれないが、本書は非常に平易な内容である(著者もそこは気を遣ったことだろう)。あくまで「思考法」がテーマである。

著者は「科学史」を学ぶことの重要性についても言及していた。確かに現在学校教育にはそのように呼べる内容を何一つ教えていない(もとい僕は教えられなかった)。ある仮説が生み出された歴史的背景、それまでまかり通っていた仮説、それを信じていた人達が考えていた世界、それらを学ぶことにより、「いま自分達が学んでいることも、いずれ崩れ去るものかもしれない」というダイナミズムを感じることが出来るだろう、というような主張か。またそれを「自分にもそれを崩すことが出来る」という精神の芽生えも期待できるかも。「力学はニュートン。世界はこうなっている。はいじゃあ次は原子物理」的な授業ではやはり「疑う力」は育ちませんよねぇ。

最後に一つ。本書の最後に「マイナスイオンうんぬん」の科学的根拠の無さが、科学関係者の中で笑い話になっているというような話があったが、では科学関係者は「ブラシボー効果」についてはどのようにお考えか。ちょっと聞いてみたいと思った。

林義正「世界最高のレーシングカーをつくる」

世界最高のレーシングカーをつくる (光文社新書)

世界最高のレーシングカーをつくる (光文社新書)

まず「惜しい」と思った。著者が持っている経歴や実績は、おそらく他の本の著者に比べて圧倒的に面白いものだと思うが、著者の筆力がそれに着いていっていないという印象を受けた(特に最初の方)。生意気言って申し訳ないが、素直な読後感はそれである。僕が車やエンジンに関する知識を少しも持ち合わせていないことを差し引いても、少し読みづらかったように思う。

しかしながら、既に述べたとおり著者の今までの実績をただ読んで知るだけでも相当の価値があると個人的には思う。特に自動車という日本が得意とする工業分野で、どれだけのブレークスルーが起きているのか、を素人が知る一つの良い機会になるだろう。著者が試したい先端技術を反対した上司に対する批判も気持ちがよく、この辺から著者の人間性が窺い知れるのも面白い。大胆かつさっぱりと批判や反論の出来る人物であろう。

しかしどこかに、流体力学とデザインの関係について解説した本はありませんかね。レーシングカーって何であんなにカッコよいのだろう。

芳沢光雄「数学的思考法」

数学的思考法―説明力を鍛えるヒント  講談社現代新書

数学的思考法―説明力を鍛えるヒント 講談社現代新書

連休と言えば読書、旅行と言えば読書。連休中に旅先でする読書は格別だと思う。知らない街のお洒落なカフェや、すがすがしいビーチでする読書は何にも代え難い。

さて連休中に読んだ本書だが、これもdanさんのentryを読んで購入したもの。どうもこういう数学の本が好きみたいで、タイトル見た瞬間から「買い」と思ってしまった。

本書はビジネス書にありがちな「数学的に論理を組み立てるには…」というようなハウツー本ではなく、現在の数学教育の持つ問題点を指摘しながら「このように数学を学んでいれば数学的な思考法が身につき、理系文系問わず、日々の生活の中で(仕事も含めて)数学的な思考法が役に立つ」というようなことを解説している本である。著者がもっともこだわっている(と個人的に感じた)「証明問題」に関しても、「粘り強く試行錯誤を繰り返すこと」の重要性を考えるうえで一つの良いトピックだと思う。社会人になって最も大事だと思った「粘り強く考えること」の重要性がこの本でも指摘されてて嬉しく思った。すぐ答えを求めがちな新社会人には、是非一読して欲しい部分である。

本書の読後感想として「学生の頃こういう本に出会っていれば…」的な意見はおそらく多数派だろう。僕自身もそのように感じなかったと言えば嘘になる。特に僕は高校時代に一度数学に挫折しており、その挫折感を引っ張ったまま大学に入学した為、理系だと名乗るのが恥ずかしいほど数学が苦手である(よくも受験に成功したものだが)。ただ僕は「学生の頃に…」的な意見を述べるにはまだ若すぎる年齢だ。今からだって十分数学はやり直せるのである。僕は数学的な思考法が出来る人間になりたいが、本音を言えば「数学が出来る人間になりたい」と思っている。数学に対する畏れと憧れは人一倍持っている僕だからこそ、本書の内容はとても身に染みた。もう一度数学を学びたい、そう思った。

二十代の皆さん、まだ何を始めるにしても早過ぎるくらいですよ。

佐々木俊尚「グーグル Google」

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する  文春新書 (501)

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書 (501)

いわゆる梅田本「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)」を上司に読ませるために何冊も購入したとかいう話をどこかで読んだが、むしろこっちの本の方がその役割に適しているだろう。取り扱われている内容が身近というのもあり、Amazonで本を買ったことのないお父さん、お母さんでもグーグルというかネットが社会に及ぼしている影響をしっかりと理解してくれるに違いない。上司には「ロングテールなんて言葉は覚えなくいいから、羽田空港の駐車場の話を読んでくれっ」てお願いしたい人もいるんではなかろうか。
しかしこの本、ネットの話題なのに佐々木氏の脚で稼いだような泥臭い文章が良い。これは梅田本にはないところ。逆に梅田本における、今ネットの世界で起きている現象を理論的に整理し尽くしてしまったようなスケールの大きさはない。
佐々木氏の文章は単純に「もっと読みたい」と思ったので、氏のブログを早速アンテナに追加させてもらった。