月別アーカイブ: 2008年6月

柴田元幸「アメリカ文学のレッスン」

アメリカ文学のレッスン (講談社現代新書)

アメリカ文学のレッスン (講談社現代新書)

ヘミングウェイをいくつか読んだ事がある程度、つまりアメリカ文学なんてほとんどよく知らない僕だが(何文学もよく知らないけれど)、本書を楽しむことが出来たのはおそらく筆者の筆力によるものだろう。それに対象が何であれ、ある分野に非常に精通した人、ある分野を非常に愛している人、言葉は悪いけれどある分野に対してマニアックな人から、その分野に関する話を聞くというのは面白いことである。だからアメリカ文学の専門家からアメリカ文学の話が聞ければ、それは大抵面白いことになる。本書はまさにそういう感じ。
レッスンとタイトルにあるし、著者は東京大学の教授だから、授業内容がそのまま本になったような中身を想像されるかもしれないが、そういうわけではない。本書の中では、ある言葉、例えば「食べる」とか「勤労」とか「ラジオ」とか、から連想されるアメリカ文学の作品や作家が紹介され、著者がそれらに対して考察を加えるという内容になっている。著者のアメリカ文学に対する洞察の深さは、僕になんか判断出来る事ではないだろうけれど、おそらく相当なもので、作品や作家に対する知識はもちろんのこと、作品や作家の背景となったアメリカの歴史的事情や経済状態なんかも踏まえて、非常に大きな枠組みで文学を捉えており、おそらくアメリカ文学というよりは「アメリカ」を専門としているとも言えるのではないだろうか。
ちなみにこの本の中で紹介されている作品で、何故か一番読んでみたいと思ったのがベンジャミン・フランクリンのフランクリン自伝 (岩波文庫)である。次の機会にでも購入してみよう。

村上春樹「雨天炎天」

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)

そう言えばこちらではまぞうを使用しないアフィリエイトについて言及されているのを見かけてから色々と試してみたのだが、Amazonの張り付けコードを使ってしまうと、どうにも見た目がすっきりしなかったので、僕はやはりはまぞうを利用することにする。
さて、本書は一応村上春樹氏がギリシャとトルコに滞在したときの記録なのだが、副題に「辺境紀行」とあるように、我々が一般的に頭の中に思い浮かべるギリシャやトルコとは大分様相の違う、まさに辺境に旅をしている。正直に言うと、トルコで頭に浮かぶイメージなんてひとつもないくらいトルコについては知らないのだが、これが普通の旅行とは違うであろうということは容易に想像がつく。
ギリシャではアトスという半島に旅されているが、正直な感想を述べるのであれば「アトスには生涯行く事はなさそうだな」というのが正直なところ。夫婦というユニットで旅行している以上、奥さんが行きたがるところでないと旅行はできないが、ここは確実にその部類に入らない。いくつかある修道院で日々宗教的な修行に取り組んでおられる僧の方々のストイックさを想像すると、なんとなく子供の頃に読んだ聖闘士星矢に出てくる聖闘士達の修行を思い出してしまう。車田正美さんなんかも、取材でこういった場所を訪れたのではなかろうか。
トルコ滞在について書かれた部分では、トルコ人の方々のかなりの親切さが非常に印象に残った。日本を訪れた外国人の方からは日本人のホスピタリティの素晴らしさ、といったような話を聞く事も多いのだが、トルコ人の方々のそれはちょっと程度というよりは種類が違うのではなかろうか、そんな印象。そう言えば昔テレビで岩手の方々の親切具合がすごいといったような内容を観た事があったけれど、それよりもっと凄そうである。
あと今まで会った事のあるトルコ人って皆さんくっきりとした凛々しい顔つきだったのが印象的だったのだが、この本の中の写真を眺めていると、どうもトルコの人というのはそういう顔らしい。欧州と中東に挟まれているという独特のお国柄が、顔つきにも表れているような気がしてくるのは不思議なものだ。

コミュニケーション能力に関する昔のエントリ

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070601/1180649356という以前書いたエントリだが、今でもちょくちょくとはてなブックマークを付けて頂く事がある。これは結構めずらしいケースの様に思う。大抵はてブはエントリを上げてから1日ないし2日くらい経つともう付かない。このエントリはありがたい事に今までで一番ブックマークして頂いたエントリだが、珍しい売り上げ(?)曲線を見せてくれているという点でも興味深いエントリとなった。推移はこちらで図でも確認できます。

バリー・ユアグロー「鯉」

柴田元幸さんの翻訳教室の二番目の課題を翻訳してみた。生徒や教師の訳例を見ると、自分がひどい誤訳をしている部分をいくつか発見したが、敢えてそのままにしておくことにする。ちなみにこういった文章をBlogに記載することには何らかの権利的な問題があると思うので、ご指摘頂ければすぐに削除しますとここに記しておきます。

バリー・ユアグロー

人生から逃れる為、君はこっそりと公園の池を訪れ、その深みに身を沈める。君は池の鯉に囲まれて生きていくのだと決めた。君は鯉人間となるのだ!
水の中では全てが心地良く、そしてくすんでいる。鯉達はびくびくと泳ぎ回っている。幸せそうには見えない。「奴らは僕を邪魔者と見なしている」と君は思った。「うん、だけどね。奴らは池の外の世界を責めるべきなんだ。奴らが不幸である事について」。
君は一晩過ごせそうな場所を見つける。息を止めているため頭がふらふらとしてきたが、思っていたより大変ではない。周りをじっと見つめていると、君は大きな衝撃を受ける、そしてほとんどぎょっとして水を飲み込む。女の子が君を見つめている!
彼女の髪は流行のオレンジ色、そして大くて分厚い白い靴下を履いている。君は呆然と彼女を見る。彼女は君に手でサイン、明らかに「あなたここで何をしているの?」を意味している、を送る。お返しに、君は同じ質問をサインで彼女に返す。その娘はイラついて顔をぐいと上げる。彼女は背中側を親指で指す。そこはまだぼやっとしていたが、たくさんの人々が池の底中にいるのが今は見える。君は彼らに驚く。「鯉人間!」と君は思う。しかし彼らは歓迎していないように見える。そう、彼らは顔をしかめているんだ。彼らは一斉に「シッ、消え失せろ」というジェスチャーを君に送り始めた。例の女の子も腰に手を当てながら君を睨んでいる。
君はこの敵意に対して何も言えず、ただ彼らを見つめている。「ごめんだねっ!」君はついに声を出した、半狂乱になって。泡がどっと溢れ出す。「嫌だ、俺はあの不幸な地上には戻らないぞ!俺はあの鯉達と一緒にここに潜んでいたいんだ!」
「消えろ!」彼らがそうジェスチャーする。「最初にここに来たのは俺たちだ!出て行け!」人々は君の目と彼らの目、そしてこの池の底にある絶望と憤りを互いに睨みつける。
そして鯉は軽快に泳いでいく。尾びれをひらひらと動かしながら、無慈悲にその光景を見つめながら。

ケータイ・ストーリーズ

ケータイ・ストーリーズ

グレゴリー・マンキュー「ガールズ・ムービー」

Greg Mankiw’s Blog: Chick Flicksを訳します。題名は迷いましたが、Chick Flicksに当たる言葉で日本で一般的なのはおそらく「ガールズ・ムービー」だと思いましたのでそうしています。

ガールズ・ムービー グレゴリー・マンキュー

I just saw the new Sex and the City movie. Even as a fan of the HBO show on which it was based, I was disappointed: It seemed like a hastily written made-for-TV movie.

先ほど映画版セックス・アンド・ザ・シティを観てきた。元々HBOで放映されていたシリーズのファンなんだけど、正直がっかりしたよ。HBOの思惑で慌てて作られたんだろうね。

What struck me most was the audience. I was one of only two men in the theater. My wife commented that a man had to be very confident in his masculinity to be there (but I think she may have been feeding me a line).

一番何が衝撃だったかというと、観客。映画館には僕を含めて二人しか男がいなかったんだ。妻が言うには、あそこに居たことは男として絶対に秘密にしておいた方が良かったって(多分僕をからかおうとして言ったんだと思うが)。

For a much better chick flick, I recommend The Devil Wears Prada.

もっと面白いガールズ・ムービーを観たいんだったら、「プラダを着た悪魔」の方が断然お勧めだよ。

3G iPhone 登場

趣味的に、時間を見つけて色々な文章を翻訳していきたいと考えました。これはその第一弾です。
http://www.techcrunch.com/2008/06/09/the-3gps-iphone-arrives/

Apple announced its new 3G iPhone today. It is much thinner, much faster, and much cheaper than its predecessor. Starting at $199(with a two-year contract), you get an 8 gigabyte device with GPS that works on AT&T’s high-speed 3G network (as opposed to the slower EDGE network all previous iPhones are bound to). A 16 gigabyte version will go for $299. Considering that the current 8 GB iPhones cost $399, that is quite a steal. The battery is supposed to support 300 hours of standby time, 5 to 6 hours of Web browsing, 7 hours of video, and 24 hours of audio. But talk time is cut in half from 10 hours to 5 hours, when using the 3G network. The launch date is July 11.

アップルは同社の新製品である3G iPhoneを今日発表した。同機種は以前のバージョンよりも薄く、そして高速、さらには低価格となる。199ドル(二年契約)でAT&Tの高速3Gネットワーク上で動く(以前のバージョンは比較的遅めのEDGEネットワーク上で動作していた)GPSを搭載した8ギガバイト版を手にすることができる。16ギガバイト版は299ドルとなる予定。現在のiPhoneが8ギガバイトで399ドルであるのと比べると、かなりのお買い得だと言える。バッテリー寿命は待機状態で約300時間、ウェブ閲覧では5、6時間、ビデオ鑑賞では約7時間、音楽鑑賞では約24時間となる予定。一方通話時間は以前の10時間から半減して5時間となるが、これは3Gネットワークを使用した場合である。発売日は7月11日となる。

Jobs claims that the 3G network approaches the speed of WiFi. What is really going to be a game-changer, though, is the higher speed in combination with the GPS chip, which will open up a whole slew of location-aware apps (some of which we’ve already seen). That and all the new iPhone apps that will be built for it by outside developers.

ジョブズ氏は、3GネットワークはWiFiの通信速度に近づいていると主張するが、より市場にとって重要なのは、外部のデベロッパーが開発してくるであろうGPSを利用した利用者の居場所を検知するアプリケーション(そういったアプリケーションは以前にも搭載されていたが)が、新しいGPSチップとの組み合わせで高速に動作するという事実であると思われる。

Apple has already sold 6 million iPhones, notes Steve Jobs. This price drop and the new features should put Apple over the 10-million mark without a problem. Here’s a video of Steve Jobs going over all the features from the keynote (taken, appropriately enough, on a cell phone):

ジョブズ氏によると、アップルは既に600万台のiPhoneを販売している。この値下げと新たな機能により、間違いなくアップルは1000万台を超えるセールスを記録するだろう。

Appleという王制国家

もしも絶対権力者である王が類い稀なる人格、能力、知見、その他の持ち主であれば、民主主義国家よりも王制国家の方が非常に効率的に物事が進むはずだから、素晴らしい国家が出来上がるのではないかと妄想したことが何度かある。その国では法案が無意味に行ったり来たりするこもなく、中途半端な折衷案も生まれない。時代遅れな法律を破棄する為に何年もかかることもないし、時代に即した取り組みを始めたと思ったら、もうその時代は終わっていたなんてこともない。ある人物や組織の面子を保つが為に不必要な予算が振り分けられる事もない。前述したように絶対権力者の能力が高いことが前提だけど、素晴らしい国家になるんじゃなかろうか。
正直に言ってあまり政治にも行政にも強い興味はないし、上記のような妄想をいつもしている危険人物でもないのだけれど、Appleにおいて如何にジョブズの変質的とも言える拘りが実際の製品に反映されているか、という話を聞いている内に「Appleは自分が妄想していた王制国家に近いのではなかろうか」ということを考え始めた。iPodやiPhoneも王制国家のAppleだからこそ作り出す事が出来たのではないかと想像している内に、まるでそれらの製品が古代の王国が作り上げた偉大な建造物、例えばピラミッドや欧州の美しい城のように思えてきた。
製品作りにおける正解というのは常にユーザーであるから、僕の妄想の中の類い稀なる王様のように高い能力の持ち主で、ユーザーの求めるものをビシバシと当てていくことが出来る人間がいるとすれば、その人の考えを追いかけるというプロセスが一番正しいプロセスということになると思う。ただしこれは非常に難しい。少なくとも普通に運営されている会社では難しいと思う。例えばiPodは美しいフォルムを優先させるため、バッテリーの交換が自分で出来ない作りになっている。もしデザイナーから「美しさを追求するため、バッテリー交換用の蓋を取り除きたい」という提案がなされたとき、その意思を製品に反映するところまで持っていける企業が果たしてどのくらいあるだろうか。僕のまだ短い社会人経験の中で想像してみても、例えばサポート部門、ケースを製造する部門といった組織が強い発言力を持っていたりすると「それではサポート部門の負担が大きく増すので駄目だ」であるとか「我々の開発したバッテリー交換部の部品にケチをつける気か」とか本来の製品作りとは関係のない部分で反感が生まれたりして、結果として計画が頓挫してしまったりだとか、折衷案によるツギハギ製品が生み出されたりだとかしてしまうと思う。iPhone(持ってないけど)においてばっさりとカメラの画質等が削られているという点についても同様である。「じゃあ○○部門の意見も取り入れてこの製品の△△はこうしよう」というような意思決定(適切か分からないが、民主主義的と呼ぶことにする)がなされている企業において、iPodやiPhoneのようなある意味「割り切った」製品を作り上げるというのは非常に難しいことであると考える。
しかし僕の想像の中では王制国家であるAppleではこれが可能である。どの部門も王の意思を実現する事を優先して動いている。王がバッテリー交換できなくても構わないから美しくしろと言っているんだからそうなんだし、カメラの画質を削ってコストを押さえろと言っているんだからそうするのであろう。対立がないわけではないだろうが、部門間の対立というよりは部門と王が対立するという事があるのかもしれない。各部門において王は共通の第一優先事項であり、ある意味共通の敵でもあるのかもしれない。Appleが大好きだけれども、別にAppleだったら何でも凄いとか言うつもりはない。おそらくAppleがもの凄く苦手とするような状況も多くあるのだろうと思う(一度は沈んだ企業な訳だし)。しかし製品を作る現場にいる人間として、上述したような「折衷案によるツギハギ製品」が自社から生まれないように努力はしたいと思っているし、Appleを多いに参考にしたいとも思う。

スティーブ・ジョブズ-偶像復活

スティーブ・ジョブズ-偶像復活

  • 作者: ジェフリー・S・ヤング,ウィリアム・L・サイモン,井口耕二
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2005/11/05
  • メディア: 単行本
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三浦つとむ「弁証法はどういう科学か」

弁証法はどういう科学か (講談社現代新書)

弁証法はどういう科学か (講談社現代新書)

弁証法という言葉の意味するところが知りたくて購入。Wikipediaで著者の項目を見てみると、本書は著者のヒット作であったとのことだが、僕としても興味深く読む事が出来た。
当初の目的であった弁証法という言葉の意味するところを人に説明出来るようになったか、と問われれば出来ないのだが、それでも思考方法の一環として、思考の枠組みとして弁証法というものが利用出来そうであるという実感は沸いた。特に形而上学的な考え方との違いや、量質転化の話、否定の否定の話などは僕のような素人にも分かり易く、今後色々な場面で役立つ物の見方を得る事ができたのではないかと思う。
ちなみに僕はこういった自分の専門外の書籍の場合だと、普通に頭からじっくりと読んでいく様な読書は最近していない。時間の節約という意味合いもあるし、純粋にじっくり読む集中力が続かない、という理由もある。どうしているかというと、まず冒頭はじっくりと読み、途中からパラパラとかなりのスピードで一番最後までページをめくり、再度冒頭を読んだり、パラパラしていた中で気になった単語の書いてあったページを読んでみたり、またパラパラめくったり、というのをウダウダ繰り返しながら、「終わった」と自分が思えるまで本をいじってるという様なことをしている。