読書記録」タグアーカイブ

仁志敏久「プロフェッショナル」

プロフェッショナル (祥伝社新書 107)

プロフェッショナル (祥伝社新書 107)

床屋の待ち時間対策に適当に買ってしまった本だったが、大当たり。こういった「考える選手」的な本はいつかイチロー選手絡みで出版されるんじゃないかと思っていたが、よくよく考えれば一流のスポーツ選手とは日々このように自分のプレーについての深い考察を深めている訳で、それをある程度抽象化した形で提供してくれれば面白くない訳が無いし、我々の仕事にも応用出来ることはたくさんある。
という訳でこの本は全ての職業人にお勧めできる内容の金言ばかりです。以下に一部掲載します。本書のエピソードで一番面白かったのは、やはり著者の高校時代の恩師のエピソードだろうか。こういうキャラクターって今はあんまりいないんじゃないかなぁ。「どんな打ち方だっていいんだよ。その打ち方の天才になればいいんだから」。すげー。
p.35

その場その場で、行き当たりばったりのプレーをせず、まずは冷静に状況判断をし、次にどんなプレーが必要なのか、また、どんな作戦を相手は仕掛けてくるだろうか、と頭を働かせてプレーをするべきです。

p.56

チームワークという言葉を”なかよし”的な意味で解釈している人が多いと思いますが、私は仲がいいからチームワークに発展するとは思いません。

p.64

とくかく先の塁を目指したのです。なぜなら若いうちであれば特に、行ってみなければ始まらないのです。慎重になってばかりでは成長もしません。とにかくトライする。やらないで叱られるのだったら、やり過ぎて叱られるほうが身になると思います。まずはそれが大事だと考えています。

p.160

しかし、よく考えていただきたいのですが、失敗や型どおりできないと”基本だ”の一言で片付けてしまう。基本ていったいなんなのでしょう。

p.175

「どうしたら野球が上手になるのか」
その答えは、「どうしたら野球が上手になるのかを考えること」。

中島聡「おもてなしの経営学」

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

セット販売の様相を呈していたけど、まずはこっちから買ってみた読書禁止期間中の僕。感想を単刀直入に言うと「後二人くらい対談相手を増やして、完全な対談本にしとけば良かったのでは」ということ。つまり対談については読み応えがあると感じたのであるが、それ以外はどうしてもブログの内容の切り貼りの印象が拭えず(いや、じっさいにそうなんですけれど)。おそらくほとんどの人が対談内で語られている中島さんの過去の実績が一番印象に残る書籍だと思われ、そういう意味も込めて「中島聡伝説」とかそういうタイトルで売り出しても良かったんじゃないかと思う次第。レーサーの中嶋悟氏となんか間違えられそうだけれども。それは冗談だけどそれくらいこの人の実績は凄い。対談中にもあったがこれからもうひと花もふた花も咲かせてやろうという方なので、あまり過去の実績をひけらかすまねはしたくもないだろうけど、若いエンジニアの為を思えばもっとそういう事を世に出してもらってもいいんじゃないかと。ロールモデルとして、ね。

梅田望夫「ウェブ時代 5つの定理」

ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!

ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!

いきなり余談だが、うちの奥さんは「うめだもちお」という名前がいつまで経っても頭に定着しないらしく、いつまでも「もちださん」と呼び続けている。「もちださんの本、Amazonから届いてたよ」みたいな感じ。名前はやっぱり「うめお」だと思っているのだろうか。
さてそんな著者の新たな書き下ろしに目を通してみた。なるほど、ビジョナリーや時代の先端をゆく技術者達の金言が上手くまとまっている。その言葉から著者が受けた衝撃、その言葉のコンテキスト、その言葉が発せられたときの時代背景なども付随して付いているのは、その金言が示唆している本当の意味を読者に考えさせる為にはどうすれば良いかを著者が考えた上の結論だろう。
金言のほとんどはシリコンバレーに大きく関係する人々からの発言であるため、本書全体の雰囲気は、著者のデビュー作である

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)
と近い。著者の本の書評を書くときには必ず似た様なことを書いている気がするが、若い人に読んでもらうべき本だと思う。若い人っていうのは社会人3年目くらいまでかな。しかも技術者を志している若者だとばっちり。世界にはこの金言を発しているような人達が集まる場所があって、それなりの才能があり、一生懸命努力してそれを伸ばしていくのなら、君たちもこんな場所で働けるかもしれないよ、とそういうメッセージを若者に伝えるのに丁度良い本ではある。
さて批判を書くとすればだが、まず単純に名言が多いと思う。これでも著者としては絞りに絞ったんじゃないかと推測するが、なお多いというのが僕の感想だ。「この中から自分の力となる言葉を探してもらえれば」という著者の意図は十分に伝わってくるものの、これだけの言葉があると、全体としてぼやけた印象を与えてしまうように思った。あとそれぞれの言葉なんだけれど、思い切って「英語で名言を書いて、その横にちいさく日本語訳を書く」という形式にしてほしかった。これも著者は色々と考えたであろうことがどこかに書いてあった気がするが、「シリコンバレーで勝負するには、色々な人の金言を理解するためには、君たち英語が必要なんだぜ」的なメッセージを込めてみて欲しかった。で、ひとつ目の批判とも繋がるんだけど、もうちょっと数を減らし、金言ひとつに1ページ使うようなレイアウトにしてみると、英語を横書き出来るので読み易さも増すんじゃないかと。もちろん諸事情はあるかと思いますが。
今年は僕の読書禁止年ですが、読んでしまいましたよ。

戸田山和久「科学哲学の冒険」

科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)

科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)

こちらもあくまで「技術書」として購入した。なんの技術かというと、Computer Scienceを考える上での思考の技術である。結果的には素晴らしく面白い本であったし、特にソフトウェアのテストに関する深い知見を得たように思う。
さて「Computer Scienceを考える上で」なんて書いたけれど、本書を読み終わっての感想は「計算機科学は科学ではなく数学だ」というもの。例えば低層のハードウェアやメモリやCPUの作り方なんて話題は科学であろうけど、データ構造やアルゴリズムなどの層の話題を考えるとき、それは科学とは呼べないな、と思った。ポパーの主張するところの反証可能性もない。世界を理解する為の試みでもないし、なんというか離散数学の一分野なのだろう、その辺りの話題は。
しかしながら、ソフトウェアテストって科学実験とのアナロジーで考えることが出来るなという貴重なアイデアを得た。ソフトウェアが十分に複雑であれば*1、そのソフトウェアに対するテストは、まるでこの森羅万象の中である実験が仮説通りの結果を返すかどうかを確かめるのに似ている。複雑なソフトウェアは森羅万象ほどではないけれど、無限と近似出来る程の状態を持つわけで、あるテスト(実験)が本当に仮説通りの値を返すのか、それは帰納的に確かめていくしかない。どうだろう、どこか科学実験に似ていると思われないだろうか。
哲学系の本って初めて読んだけれど、かなり考えさせられることが多くて面白かった。内容は平易に書いてあるし、300ページ弱と薄めの本だけれど、読むのに結構な時間がかかってしまった。が、科学哲学の入門書としては非常に優れているんじゃないかと思います。少なくとも僕は多いに興味を持ちました。

*1:複雑だということはまったく喜ばしいことではないが、得てしてそうなる

保江邦夫「数学版 これを英語で言えますか?」

こ、これは滅法面白い。

数学版 これを英語で言えますか?―Let's speak mathematics! (ブルーバックス)

数学版 これを英語で言えますか?―Let’s speak mathematics! (ブルーバックス)

読書禁止中なのに読んだのは、英語の文章の中に出てくる数式を発音するときだけ(勿論心の中で発音しているのだが)日本語になってしまうことに違和感を感じていたから。
本書はひたすら色々な数式を英語でどう読むか、を紹介していくだけの内容である。ただそれだけであるが、数式が英語で読めるようになって、次から次へと提示される数式を英語で発音していくのがものすごく楽しい。思わず電車の中でぶつぶつと発音して、回りの人から変な目で見られてしまうほどに楽しい。そんな内容である。理系の学生や理科系の専門職に就いている方には是非ご一読をお奨めする。おそらくこれに慣れてくると、数式は英語で発音するのが最も正しいことであるように思えてくるだろう。
\sum_{k=1}^n{k}
は例えば、
The sum from k equals one to n of k
と読む。

ドナルド・A.ノーマン「誰のためのデザイン?」

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

このエントリを読んで購入。「認知科学者のデザイン原論」と副題にあるが、あくまで「技術書」として読んだ。本書を読んで学んだ事はかなり多かったように思うが、一言で言うと
失敗や不便を研究することの大切さ
であると思う。さらに言えば
その研究成果を如何に製品のデザインに活かすよう心掛けるか
が学べたと思う。
例えばあなたはコピー機の中に原本を忘れてきたことはないだろうか。おそらくあると思うが、そのときに「コピー機のデザインが悪かったから忘れた」という発想が出来るだろうか。おそらく出来ないだろう。基本的には「自分は馬鹿だから忘れた」という発想で止まるのが普通だろう。本書を読む事でその発想転換が可能になる。一般的な意味でのプロダクトデザイナーはもちろんのこと、UIをデザインする必要のあるプログラマ、建築家などの方には必読の書であるように思える。実際に僕も仕事でUIを設計することは多いが、本書を読んでからUIの設計する際の考え方がかなり深くなったように思う。

梅津信幸「あなたはコンピュータを理解していますか?」

あなたはコンピュータを理解していますか? 10年後、20年後まで必ず役立つ根っこの部分がきっちりわかる! (サイエンス・アイ新書)

あなたはコンピュータを理解していますか? 10年後、20年後まで必ず役立つ根っこの部分がきっちりわかる! (サイエンス・アイ新書)

2007年最後に読んだ本。この本は対象読者層が結構限られるだろうな、というのが個人的な第一印象で「文系、または情報系以外の理系の学生、またはその出身の社会人で、突っ込んでコンピュータの事を知りたいという知的好奇心のある方」というのがその対象ではないかと思う。とはいうのもかなり平易な例を用いて説明をしているものの、その対象がエントロピーや有限オートマンオートマトンやメモリの参照の局所性など、まあ普通は一般の人に求められないような知識だからだ。このあたりの内容を既に勉強してきた人にとっては平易な説明でなくてもかまわないだろうし、平易な説明が必要な方はおそらく学ぶ必要もあまりないのではないかと推測するので、位置づけが難しい本だと思う。が、面白いです。

今年読んだ中で面白かった本10冊

定番イベントですけどやっときます。あくまで「今年読んだ本」であった「今年出版された本」ではありません。技術書は含みません。順位も付けませんのであしからず。紹介文は僕が書いたエントリからの引用です。

特捜検察の闇

特捜検察の闇 (文春文庫)

特捜検察の闇 (文春文庫)

魚住昭「官僚とメディア」 – 二十代は模索のときブログで紹介した「官僚とメディア」と同じ魚住氏による本書は、この日本で起こっている司法の腐敗を抉り出したもの。相当に読み応えがありました。

著者は本書で語っているように、以前は特捜検察のファンだったという。特捜検察という前著は特捜検察の活躍を描いたものであるようだ。しかしその著者が今度は検察、そして司法全体に蔓延る腐敗の構造に光を当てることになった。日本の司法にどんな変化があったのか、そしてこれからどう変わっていくのだろうか。そういったこと深く考えさせられる内容である。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20071116/1195167489

過剰と破壊の経済学

過剰と破壊の経済学 「ムーアの法則」で何が変わるのか? (アスキー新書 042)

過剰と破壊の経済学 「ムーアの法則」で何が変わるのか? (アスキー新書 042)

梅田本も勿論そうだけど、ソフトウェアや通信など、所謂で活躍する若き人材や、将来それらの業界を目指している学生達にはこの「池田本」も是非読んでもらいたい。なぜかというと、この池田本で今僕らが属している世界というのはどういう世界なのか、どのように成り立ったのかを総覧出来るからだ。この池田本で自分達の属している世界の構造をしっかりと把握してから、梅田本を読んで夢や将来像を作り、それを達成する為の戦略を練ってほしい。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20071216/1199056395

生物と無生物の間

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

本書は「生物とは何か」という根源的な問いに対して著者自身が答えを出そうとしたその経過を記したものである。我々は普段そのような問いかけをすることはあまりないが、「生物」と「無生物」というものを無意識のうちに判別しているし、何かをその境界に見てとっているはずである。それは一体なんなのか?それを追っていくのが本書のテーマである。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070819/1187488098

翻訳家の仕事

翻訳家の仕事 (岩波新書)

翻訳家の仕事 (岩波新書)

当然ながら文章を生業にしている方々ばかりなので、非常に読ませる内容で本書は満ちていると思うが、それよりも何よりも翻訳という仕事、もっと言えば自分が真剣に取り組んでいるある作業に対する考察が非常に興味深いものとなっている。プログラマがプログラミングという作業について真剣に考察しているようなブログエントリが非常に面白いのと同様、翻訳家が翻訳と向き合う姿を描くこの本は面白かった。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070419/1176933446

進化しすぎた脳

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

本書では脳科学者の池谷裕三氏が、それこそ「中高生にも分かるように」脳についての説明を行ってくれている。授業の内容をそのまま文章にしたこともあって非常にテンポも良く、さくさくと読み進めることが可能。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070224/1172276215

風の歌を聴け〜ダンス・ダンス・ダンス

風の歌を聴け (講談社文庫)1973年のピンボール (講談社文庫)羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫)ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)

偉そうなことを言ってしまうなら、素人のくせに能書きを垂れてしまうなら、羊をめぐる冒険とダンス・ダンス・ダンスの間には奇妙な溝があるように感じたというか、連続して読んだからかもしれないけれど、昇っていたエレベータの景色が急に様変わりしたようなというか、何か異質な世界に入ったような感覚を覚えた。これは70年代的なものと80年代的なものの違いなのか(そして僕が生まれた時代と育った次代の違いでもある)、村上春樹という作家の成長もしくは変貌によるものなのか、あるいはただの僕の読んだときの体調であるとか気分であるとかそういった読者側の要因なのか、その辺は分からないのだけれど、確かに溝がそこにはあった。少なくとも僕の今回のこの読書においては。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20071028/1193531149

キャッチャー・イン・ザ・ライ

キャッチャー・イン・ザ・ライ

キャッチャー・イン・ザ・ライ

実は先日翻訳夜話2 サリンジャー戦記(文春新書)という新書を購入して読み出したのだが、どうもこの本がこの村上春樹訳のキャッチャー・イン・ザ・ライを読んでいることを前提にしている本だったので(当たり前と言えば当たり前だが)、そちらを一旦中断し、本書を読んでみた。おそらく本書は多くの人は思春期というか、少なくとも社会人になる前に読む類の本ではないかと推測したがどうなのだろうか。僕はもういい大人になってから本書と出会ったので、多少他の人と感じ方が違うかもしれない。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070526/1180133736

特捜検察vs.金融権力

特捜検察vs.金融権力

特捜検察vs.金融権力

スリリング。特に第1部のスリルはかなりのものだと思う。蜜月だった時代から大蔵官僚の摘発にいたるまでの特捜部の動きの変化は非常に興味深い。僕の頭の中に漠然と染み付いている数々の思想は、こういった日本の中枢にいる人達の「成果」なのかと思うと不思議である。例えば「大蔵省とノーパンしゃぶしゃぶ」なんて言葉が世間を飛び交っていたとき、僕はほんの子供だったはずだが、しっかりと頭に刻み込まれている。佐川急便事件やリクルート事件にしても同様だ。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070510/1178748438

いかにして問題を解くか

いかにして問題をとくか

いかにして問題をとくか

本書はポリア教授により、数学の問題を解くに当たっての考え方の手順や方法を学生にどの様に教えるか、という目的で書かれたものである。が、どんな数学の問題にでも当てはめることが出来るように、その手順は十分に抽象化されている為、数学を超えて、色々な物事の問題を解決するときにも使える内容になっている。一度は目を通しておき、ポリア教授の言葉を頭に刻んでおくと有意義だと思う。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070728/1185591639

獄中記

獄中記

獄中記

本書を読んでいて一番感じたこと、それは意外かもしれないが「ユーモアの大事さ」である。「ユーモアを持ち続けることの大事さ」と言った方が良いかもしれない。前半にそういった件があった気がするが、佐藤氏はこの状況においてもユーモアを持ち続けていようと務めていたと思うし、実際にそれは成功していたと思う。弁護団への手紙からも、外務省の後輩への手紙からも、彼一流のユーモアが感じとれる。こう書くと「ではユーモアとは何なのか」という哲学的な問いへと発展しかねないが、取敢えずは「現状を楽しむ力」と定義しておきたい。アカデミー賞で何部門かを獲得したイタリア映画「Life is Beautiful」は人間にとってのユーモアの大事さを描いた作品だと僕は認識しているが、あの映画を見たときのようにユーモアを持ち続けることの大事さを痛感した一冊だった。

http://d.hatena.ne.jp/rintaromasuda/20070120/1169267742

クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

読む前に予想していたのは「本書を読みながら目の覚める様な知的興奮を覚えるだろう」という事だったのだが、正直に言うとそういった現象は起きなかった。おそらく本書に関する膨大な情報が既に至る所に(特にネット上に)存在するので、僕の頭の中に本書のベースとなる基本的なアイデアがあらかじめ組み込まれていたせいだろう。逆に言うとそれだけ情報が溢れてしまうような名著なのである。この先何度となくページを捲る事になりそうな予感を感じたのは、やはり著者であるクリステンセン教授が示唆する通り「歴史は繰り返す」からだろう。細かい数字などを飛ばして読んでも本書の核となるアイデアは掴めるはずなので、まだ読んでいない方で、世の中に反乱している本書関連の情報をまだ吸収していないと思われる方は一読をお勧めしたい。
さて技術者*1の視点で本書を読んだとすると、強く思うことは一つ。それは「如何にして破壊的技術を生み出すか」ということ。著者の言う通り、この「破壊的イノベーション」というのは通常新しい技術ではない。新しくないというのはつまり「基礎研究から飛び出してきたばかりの技術ではない」という意味であって、顧客や市場にとっては新しい技術であろう。つまるところ「既に存在する技術をどのようにマーケットに適合するように利用出来るか」が肝である。当然そこには新たな技術的挑戦があることも忘れてはならない。「自動車を電気で走らせる」ということと「一般家庭で使ってもらえるくらいの自動車を電気で走らせる」ということの間には通常大きな違いがある。その間ではまた新たな研究が必要だし、新たな開発が必要である。そしてそういった現場に関わることはエキサイティングであろうと思う*2。そこで活躍するような技術者になる為にはどうすればいいのか。本書にはそのようなテーマはなかったけれど、読んだ結果としてそう考えさせられる。そういう本である。

*1:本書ではビジネスに関わる全ての活動を「技術」として捉えていたが、ここでいう技術は普通のTechnologyのことです。

*2:勿論基礎研究こそがエキサイティングだという研究者の方も多くいらっしゃると思います。

2007年度の今年の一冊

自分の中では年末恒例の「今年の一冊」の時期がやってきた。これは僕が極めて個人的に「今年はこんなことがあったなぁ」と思い出しながら、ベストセラー小説を買って読むというだけの企画であり、過去には下記のように本をセレクトした。

書籍
2003年 バカの壁 (新潮新書)
世界の中心で、愛をさけぶ
2004年 東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~
2005年 信長の棺
2006年 わたしを離さないで

「今年はどうしようかな」と少しだけ真剣に考えたのだけれど、今年は小説はやめることにして、テクノロジー業界に身を置きながらも、「やっと」というか「ようやく」というか「まだ読んでいなかったのかよ!」と言われそうなイノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)を読んでみることにした。今年は思うところの多い一年だった。色々と楽しんだことも多かったけれど、分かりやすい形で苦難も多い一年だった。来年はこのブログのタイトルに合わない三十代に突入する。自分のこれからの歩む道を意識しながら、クレイトン先生の名著のメージを捲りたいと思う。